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東京高等裁判所 平成6年(う)342号 判決 1996年2月14日

本店所在地

栃木県栃木市大宮町二〇五一番地一六

株式会社安田住宅

(右代表者代表取締役 安田稔)

本籍及び住居

栃木県栃木市大宮町二〇五一番地一六

会社役員

安田稔

昭和一七年一〇月九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成五年一二月二一日宇都宮地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らからそれぞれ控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官五島幸雄出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人株式会社安田住宅を罰金九〇〇〇万円に処する。

被告人安田稔を懲役一年六月に処する。

被告人安田稔に対し原審における未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。

原審における訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人和田衛、同篠崎和雄、同青木英憲連名の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて各論旨につき、次のとおり判断する。

第一各控訴趣意中事実誤認の主張について

一  昭和六三年一月期における千葉県鴨川市打墨地区のゴルフ場開発に関する架空外注費について

論旨は、要するに、被告人株式会社安田住宅(以下「被告会社」という。)を名宛人とするヨシバ建設株式会社(以下「ヨシバ建設」という。)作成名義の昭和六二年四月五日付及び同年六月三日付の各五〇〇万円の領収証はいずれも架空の領収証であり、合計一〇〇〇万円の架空外注費を計上したものであると原判決は認定しているが、各領収証の記載に対応して振込送金ないしは貸金との相殺という方法で実際に支払いがされているばかりか、その支払いの趣旨は、当時ヨシバ建設の代表取締役吉羽宏四郎(以下「宏四郎」という。)が被告会社のためにいくつかのゴルフ場の情報を提供したことに対する報酬及び同人の今後の活動費用であって、いずれも経費性が認められるから、この点で、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるというのである。

なるほど、当審で取り調べた当審弁一ないし三号証によれば、昭和六二年三月二七日、栃木信用金庫本店の被告会社名義の預金口座から五〇〇万〇八〇〇円が出金され、同日付で東武信用金庫草加支店のヨシバ建設名義の預金口座に被告会社から五〇〇万円が入金され、また、同年六月三日、足利銀行新栃木支店の被告会社名義の預金口座から五〇〇万円が引き出されていることが認められる。所論は、前者の振込送金分が四月五日付領収証に、後者の出金分が六月三日付領収証にそれぞれ対応し、さらに後者については、五〇〇万円の貸金との相殺処理によって支払ったものであると主張しているところ、振込送金分については、所論指摘のとおり支払の事実が認められるが、相殺分については、相殺処理による支払の事実は認められない。すなわち、被告人安田稔(以下「被告人」という。)は、原審公判廷においては、当初、右各領収証記載の合計一〇〇〇万円を単に宏四郎に支払ったとするのみで相殺の点を何ら供述していなかったのに(原審第三回公判調書速記録一二丁)、その後、そのうちの五〇〇万円を相殺処理の形で支払った旨を供述し(原審第九回公判調書速記録二三五丁)、さらに、当審においては、これと異なる処理の形で支払った旨を供述し、これらに被告人の検察官調書の内容を加えると、場当たり的に供述を変更しているというほかはなく、その間の経緯について納得できる説明もない。その他、所論がいう貸金の存在及びその弁済の事実を裏付けるに足りる客観的証拠がないことを、併せ考えると、結局、相殺処理による五〇〇万円支払の事実は、これを認めることができない。

次に、三月二七日に振込送金され、四月五日付で領収証が作成された五〇〇万円の授受の趣旨について検討するに、そもそも当時宏四郎が情報を持ち込んだという各ゴルフ場の件は、被告会社にとって何ら具体的な成果がないままに話自体が立ち消えになったものであって、宏四郎自身、捜査段階において、ブローカーとして被告会社から報酬を貰える筋合いではないことを明確に認めていたほか(宏四郎の検察官に対する平成三年一二月一〇日付供述調書の謄本)、弁護人側の証人として出廷した原審公判廷においても、「(五〇〇万円については)はっきりとした報酬ではなく、安田が、借金に困っていた自分の面倒をみて助けてやろうということで私情が入って支払ってくれたものと思う。」などと報酬性を否定する趣旨ともとれる曖昧な供述をするにとどまっている(原審第七回公判の証人尋問調書一五二丁裏)。さらに、被告人も、捜査段階においては、同領収証の摘要欄記載のとおり、宏四郎が鴨川ゴルフ場の設計図面のトレースや土量計算などを手伝ったことに対して支払ったものである旨を強調していたのであり、その後、原審公判廷でこれを変更するに至った経緯について合理的な説明をしておらず、ここでも場当たり的に供述を変遷させているから、所論に符合する被告人の原審及び当審公判廷における供述は信用することができない。

以上のとおり、前記各領収証に記載された合計一〇〇〇万円について、被告会社の経費性を否定した原判決の判断は正当であり、所論指摘の事実の誤認は認められない。論旨は理由がない。

二  平成元年一月期における西方ゴルフ倶楽部用地の地上げに関する架空仕入れについて

論旨は、要するに、原判決は、西方ゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)用地の地上げ(以下「本件地上げ」という。)の過程で被告会社がヨシバ建設に支払ったとする公表金額一五億円のうち、実際に各地権者に支払われた合計約八億一三〇〇万円を除いた六億八六〇〇万円余りの全額が架空経費(外注費)であると認定しているが、そのうち、宏四郎が現実に取得した約四億三六〇〇万円は、(1)ヨシバ建設が地上げの総括的役割及び対外的当事者としての役割を果たし、また、(2)国土利用計画法(以下「国土法」という。)の規制に違反して土地を取得するという本件地上げの完遂上必要不可欠であった行為をヨシバ建設の代表取締役である宏四郎が実行したことに対する報酬分が含まれており、少なくとも右の四億三六〇〇万円の七割に相当する三億〇五二〇万円を被告会社の経費として認容すべきであるから、この点で、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるというのである。

しかしながら、原判決挙示の関係証拠によば、前示の約六億八六〇〇万円の全額について架空経費を計上したものであると認定した原判決は正当であり、当審における事実取調べの結果によっても右判断は左右されず、原判決に所論指摘の事実の誤認はないというべきである。以下、所論にかんがみ説明を付加しておく。

1  地上げに対する報酬性について

ヨシバ建設の実態及び本件地上げに対するその関与の実態等の諸点に照らすと、ヨシバ建設が被告会社から支払いを受けた形の前記金員の中に、本件地上げに対する報酬分が含まれていたとは認められない。

まず、ヨシバ建設の実態についてみると、宏四郎は、昭和六一年四月、同人が代表取締役の地位にあって当時事実上倒産状態にあった「株式会社ヨシバ」の商号を「ヨシバ建設株式会社」に、その営業目的を「サンドイッチ、ホットドッグ各種パン加工、食料品の製造販売」等から「土木建築の測量・設計、不動産の売買仲介に関する業務」等にそれぞれ変更し、さらに役員や本店所在地などを変更しているが、同社は、そもそも事務所や従業員を欠き、法定帳簿も備えていなかったほか、建築や土木工事の施工及び不動産取引に関する免許ないしは許可を取得しておらず、その営業活動の実績もなかった。代表者である宏四郎自身も、ゴルフ場用地の地上げに関する実務経験、専門的知識や能力などはなく、本件ゴルフ場用地の地権者らと地縁、血縁等の特殊な関係を有する者ではなかった。また、宏四郎は、前記の商号等の変更から間もない時期に、比留間建設株式会社の昭和六二年五月期における脱税に関してヨシバ建設名義の架空領収証の作成に協力して報酬を得ていた経緯が認められる。こうした事情を併せ考慮すると、ヨシバ建設は、ほとんど実態のない会社であって、被告会社がこれに本件地上げを担当させる合理性や必要性はなく、脱税工作に関与する以上の役割は果していなかたものと認めるのが相当である。このことは、被告人と宏四郎が、本件地上げを被告会社がヨシバ建設に総額一八億八〇〇〇万円で請け負わせることなどの虚偽の事項を記載した覚書(昭和六三年一月一〇日付)を作成する一方で、ヨシバ建設が具体的に担当すべき業務内容等を予め取り決めるなどした形跡が何ら見当たらないことや、後述するとおり、ヨシバ建設ないしは宏四郎が本件地上げに関して評価すべき役割を果たした実績がないことからも裏付けられている。

次に、ヨシバ建設ないしは宏四郎の本件地上げに対する関与の実態についてみると、まず、宏四郎は、その検察官調書において、本件地上げについては「ほとんど何の働きもしていない」旨を明確に供述しており(平成三年一二月一七日付調書の謄本)、他の関係証拠に照らしても、ヨシバ建設や宏四郎が本件地上げに関し報酬に値する独自の活動をした事実は認められない。なるほど、所論が指摘するとおり、宏四郎が、各地権者との交渉を中心的に担当、実行していた実弟の吉羽徹真(以下「徹真」という。)に同行して地権者方まで赴いたことが何度かあったことは否定できないものの、その場合でも、宏四郎は交渉の表に出ておらず、これに実質的に関与していないことが明らかであり、宏四郎が同行したことに格別の意味があったとは考えられない。この点に関し所論は、宏四郎は徹真を通じて地上げの実働部隊を監督し、地上げを推進してその総括的役割を果たしていたと主張している。しかしながら、関係証拠によれば、宏四郎は、各売買交渉について徹真らを実質的に指揮したり監督したりする立場にはなく、また、そのような能力や知識もなかったことが明らかである。所論は、本件地上げが中途で挫折した場合の被告人に対する地元の批判を考慮した結果、地元や自治体との関係で被告会社を地上げの主体ないしは当事者とすることができなかった事情があり、また、当時、被告人は県議会議員選挙に立候補する予定であったため、ゴルフ場開発に必然的に伴う有力者や地権者に対する裏金の支払のほか、用地買収を巡る地権者とのトラブルや開発が失敗してオーナーから法的責任を追及された場合などの処理を被告会社が直接の当事者として実行することは選挙対策上好ましくなかったという事情があったことから、本件地上げをヨシバ建設に請け負わせてこれを対外的当事者としたものであって、そうすることの合理性と必要性は存在していたと主張している。しかしながら、この所論は、結局、ヨシバ建設の名義を用いて同社に本件地上げを請け負わせる形を仮装したことについて被告人に脱税目的意外の動機が存在していたことを述べるに過ぎない。また、右のような選挙対策等の動機は、被告人の個人的事情に基づくものであることが明らかであって、被告会社の業務との関連性を直ちに肯定することは困難である。

なお、所論は、昭和六二年二月二七日付で株式会社鴨川ゴルフアンドカントリー倶楽部からヨシバ建設に対して本件ゴルフ場の地上げ運動費として五〇〇万円が支払われた事実があるから、原判決が同年一二月の本件ゴルフ場開発に関する関係官庁との事前協議終了以前に宏四郎が地上げに関与したことはないと認定したのは誤っていると主張している。なるほど、原審弁四九号証、当審弁二、四号証によれば、昭和六二年三月九日、東武信用金庫草加支店のヨシバ建設名義の当座預金口座に他店券(株式会社鴨川ゴルフアンドカントリー倶楽部振出の約束手形)による五〇〇万円の入金があり、同年二月二七日付で同額の金員を本件ゴルフ場地上げ運動費として受領した旨のヨシバ建設名義の領収証が作成されていることが認められる。しかしながら、先に述べたとおり、当時ヨシバ建設や宏四郎が現実に本件地上げに関与し、報酬に値する活動等を行っていたとは認められないから、右の入金も、結局、他の領収証と同様外形的な金員の流れを作出したに過ぎないものと認めるのが相当である。したがって、原判決の判断に各所論指摘の誤りはない。

2  国土法違反行為に対する報酬性について

所論は、要するに、本件ゴルフ場開発のため事前協議の対象区域外の用地約一〇ヘクタールを更に取得しなければならない事態が発生した際、同土地につき国土法所定の届出手続を履行する時間的余裕がなかったことから、同法に違反して宏四郎名義に所有権移転登記手続をした行為(以下「本件行為」という。)は、本件ゴルフ場の開発に当たっての経済的な寄与の程度が極めて高く、数億円という高額の報酬に値するものと当事者が評価しても不合理ではないというのである。

しかしながら、そもそも、本件行為について宏四郎が関与したのは、国土法所定の届出をしないで買収した土地(一三筆)について宏四郎が所有名義人となることにつき承諾を与えたことと、平成元年一月に県当局に対し被告人が作成した宏四郎名義の始末書を提出したことのみであって、各地権者との交渉、各登記手続、事後的にされた宏四郎名義での国土法所定の届出等の実質的で核心をなす行為には一切関与しておらず、宏四郎自身、自己の名義とされた土地の筆数自体すら知らなかった。また、不動産関連業の正規の免許を有しない宏四郎が本件行為により受ける制裁は軽微であり、実際、宏四郎に対し右始末書提出以上の処分等がなかったことも明らかである。結局、関係官庁との事前協議の対象区域外の土地を地上げする必要が生じた事情及び本件ゴルフ場開発における本件行為の重要性や経済的効果等を強調する所論を十分考慮しても、宏四郎の単に名前を貸しただけに過ぎない右程度の行為に対し所論のような高額の報酬を支払うべき必要性や合理性があったとは到底考えられない。

更に、宏四郎は、すでに昭和六三年一月期において、前記の鴨川市打墨地区のゴルフ場開発や宇都宮市南大通り所在の土地取引に関し、被告会社の所得秘匿工作に協力し、本件ゴルフ場開発に関しても、報酬を得る目的で、昭和六三年初めころから、ヨシバ建設名義の架空領収証を作成するなどして同様の協力をしていた。宏四郎は、捜査段階において、昭和六三年四月から五月ころにかけて国土法に違反して自分の名義で早急に事前協議区域外の用地を取得することになり、同年六月から八月にかけて自分の名義に所有権移転登記手続をするに至った経緯について、「自分自身、地上げにおいてほとんど何の仕事もしていなかったので、せめて、国土法に違反して取得した土地につき自分名義で所有権移転登記手続をすることぐらいしなければ、儲けさせてもらう理由が立たない、自分の役割がないという気持ちだった。これに対する対価がいくらになるかという発想はなく、いくら貰えるのかという取決めをしたこともなかった」などと供述している(宏四郎の検察官に対する平成三年一二月一三日付供述調書の謄本)。こうした事情を併せ考慮すると、宏四郎は、報酬を得るために被告会社の所得秘匿工作に協力することの一環として本件行為に加担することになったものと認めるのが相当である。なお、関係証拠によれば、宏四郎と被告人との間で、本件行為に対して、脱税協力報酬とは別個に独立して数億円という多額の報酬を支払う旨の合意が成立した事実及びそのような合意に基づいて支払がされた事実はなかったものと認められる。

以上からすれば、宏四郎の本件行為に対する報酬が三億円程度、あるいは三億から五億円であるとする宏四郎や被告人の供述は到底信用することができず、その他所論が縷々主張するところを考慮しても、本件行為に対する報酬性に関する原判決の判断には誤りはない。

3  その余の所論について

所論は、原判決は資金の流れを具体的に確定しないまま約六億八六〇〇万円の全額が架空経費であると断じているところ、そのうち、現実に被告人に還流されたのは約二億五〇〇〇万円に過ぎず、その余の約四億三六〇〇万円はすべて宏四郎が取得し、特に、平成元年五月九日に取得した一億円のうち七〇〇〇万円及び同年六月四日に取得した二億円のうち一億七〇〇〇万円の合計二億四〇〇〇万円の中から、同月中旬ころ、二億円を大阪在住の向井忠幸からの借入金の弁済に充てた事実が認められ、この点からも宏四郎が脱税協力金の相場を大きく上回る多額の金員を取得したことは明らかであるから、同人をいわゆる「B勘屋」として利用したに過ぎないという原判決の本件に対する基本的構図や見立ては根本的に誤りであると主張している。

しかしながら、所論のうち向井忠幸に対する二億円の弁済の点を肯定する向井の原審証言は、宏四郎には二五〇〇万円を貸し付けたに過ぎないとする向井の平成元年一二月二二日付質問てん末書での供述と大きく異なる上、その内容自体、利息の明確な約定や担保もなく、しかも元金に対する返済がないにもかかわらず、宏四郎に対し元金の合計が二億円以上に及ぶ巨額の金員の貸付を重ねていたとする点や、宏四郎から二億円の返済を受けたが領収証を作成せず、同人から預かっていたという手形もその全部を返還せず、その後直ちに二億円全額を弁済期や利息の約定もしないで知人の玉井清一に貸し渡したとしている点など、著しく不自然不合理というほかはない。また、所論に符合する玉井清一名義の手書きによる簡単な平成元年六月一五日付借用証(原審弁二七号証)が証拠として採用されているものの、この点に関する玉井本人の供述など同借用証に関する裏付けも存しない。さらに、向井からの借入れや二億円の弁済に関する宏四郎の原審第一七回公判期日における証言についても、同様の疑問がある上、同人の捜査段階における供述と大きく異なっており、その間の経緯につき納得できる説明がない。各原審証言を信用することができないとした原判決の判断は正当である。

そして、ヨシバ建設に一旦流れた金員の行方の全容は明らかではないが、関係証拠によれば、宏四郎が最終的に取得した金員は、脱税協力に対する報酬として支払われたもの、ないしは、被告会社の業務とは何ら関連のない被告人の個人的思惑に基づく簿外資金の流用として支払われたものに過ぎないと認めるのが相当であって、被告会社の正当な損金と評価することはできず、資金の行方等に関する原判決の判断や説示に誤りはないというべきである。

以上の次第で、事実誤認の論旨はすべて理由がない。

第二職権判断

原判決は、昭和六三年一月期において、被告会社所有にかかる宇都宮市南大通り四丁目七番八号所在の土地をワールド商事株式会社に売り渡した取引に関し、被告会社が同取引にヨシバ建設を介在させることにより五五〇〇万円の売上除外を行った旨を認定しているところ、原判決挙示の関係証拠によれば、被告会社は、昭和六三年一月二一日に締結された前記土地の売買契約に関し、これを仲介した宇都宮住宅産業株式会社に対して、ヨシバ建設及び被告会社の各名義によりそれぞれ五〇〇万円、合計一〇〇〇万円の仲介手数料を支払ったことが認められ、したがって、同金額を被告会社の昭和六三年一月期における経費として計上すべきことになる。しかるに、右のうち、ヨシバ建設名義で支払った五〇〇万円の仲介手数料については、原判決において、昭和六三年一月期の当期増減金額として認容されていることが明らかであるが(甲七号証・原審記録第三冊八一丁及び原判決別紙一(二)の修正損益計算書支払手数料の欄参照)、一方、被告会社名義で支払った五〇〇万円の仲介手数料については、原判決挙示の各証拠からはその処理状況が明らかではないところ、当審における事実取調べの結果によれば、昭和六三年一月期の法人税確定申告では公表処理されておらず、翌平成元年一月期の申告に際し、当期仕入高勘定により公表処理された経緯が認められる(大蔵事務官作成の平成六年四月二六日付査察官報告書の謄本)。そうすると、同金額を昭和六三年一月期の経費として計上しないまま、被告会社の同期の実際所得金額を一億一二八一万三六七一円とした原判示第二の一の事実摘示については、五〇〇万円の過大認定をしたものといわざるを得ず、この点で原判決に事実の誤認が存することは否定できない。そして、この点が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れない。

なお、平成元年一月期の当期仕入勘定で公表処理済の被告会社名義で支払われた仲介手数料五〇〇万円についてはこれを否認すべきであるから、同期の所得が五〇〇万円増加するほか、前記のとおり、昭和六三年一月期の実際所得金額を五〇〇万円減額する結果、翌平成元年一月期の所得金額の計算に当たり、事業税認定損の金額を七二二万六一〇〇円(原判決別紙一(三)の修正損益計算書の事業税認定損の欄参照)から六六二万六一〇〇円に六〇万円減額すべきことになり(当審で取り調べた大蔵事務官作成の平成六年五月九日付事業税認定損調査書の謄本)、この点で平成元年一月期の所得が六〇万円増加することになる。以上からすれば、平成元年一月期における実際所得金額は、原判示第二の二の金額よりも五六〇万円増額したものになる筋合いであるが、この点に関しては、当審において検察官が昭和六三年一月期の実際所得金額を五〇〇万円減額させる趣旨の証拠調べを請求をしながら、翌期の平成元年一月期の公訴事実についてあえて訴因変更手続を求めていないのであるから、原判示第二の二の実際所得金額等をそのまま是認すべきものと考えられる。

そこで、その余の控訴趣意(量刑不当の主張)に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄することとし、同法四〇〇条ただし書にしたがい、被告事件につきさらに次のとおり判決する。

第三自判

一  罪となるべき事実

被告会社の昭和六三年一月期の事業年度における法人税ほ脱の事実に関する原判示第二の一の事実のうち、被告会社の実際所得金額「一億一二八一万三六七一円」を「一億〇七八一万三六七一円」に、正規の法人税額「六〇二〇万九八〇〇円」を「五八一一万〇二〇〇円」に、正規の法人税額と申告税額との差額「三八九八万二七〇〇円」を「三六八八万三一〇〇円」にそれぞれ変更し、かつ、原判決の別紙一(二)修正損益計算書を本判決の別紙修正損益計算書に、原判決の別紙二(二)税額計算書を本判決の別紙脱税額計算書にそれぞれ差し替えるほかは、原判決認定の各事実と同一である。

二  証拠の標目

原判決と同一である(ただし、第二の二の事実に関する原判決九丁表四行目の「増尾とも子」を「増尾もと子」に訂正する。)。

三  法令の適用

1  被告会社いついて

原判決と同様に法令を適用し(ただし、刑法については平成七年法律第九一号による改正前のもの。以下同じ。)、その所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金九〇〇〇万円に処し、原審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文、一八二条により被告人と連帯して負担させることとする。

2  被告人について

原判決と同様に法令を適用し、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、刑法二一条を適用して原審における未決拘留日数中五〇日を右刑に算入し、原審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文、一八二条により被告会社と連帯して負担させることとする。

四  量刑の理由

本件は、不動産の売買及び仲介等を目的とする被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していた被告人が、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、土地売却代金を過少に計上し、架空の測量設計費、土地買収協力費等を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、(1)被告会社の昭和六二年一月期における実際所得金額が三四一四万三七五九円であったのに、欠損金額が五五万六二四一円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽過少の法人税確定申告書を所轄税務署長に提出してそのまま法定納期限を経過させ、正規の法人税額一三五四万五六〇〇円の全額を免れ、(2)ヨシバ建設の代表取締役吉羽宏四郎と共謀の上、<1>被告会社の昭和六三年一月期における実際所得金額が一億〇七八一万三六七一円、課税土地譲渡利益金額が四七六四万円、課税留保金額が零であったのに、所得金額が五二五九万五七七一円、課税土地譲渡利益金額が零、課税留保金額が八四五万四〇〇〇円で、これに対する法人税額が二一二二万七一〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を所轄税務署長に提出してそのまま法定納期限を経過させ、正規の法人税額五八一一万〇二〇〇円との差額三六八八万三一〇〇円を免れ、<2>被告会社の平成元年一月期における実際所得金額が九億六四八五万二四一八円であったのに、所得金額が一億〇九七六万三七五〇円で、これに対する法人税額が四三五五万〇七〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を所轄税務署長に提出してそのまま法定納期限を経過させ、正規の法人税額四億〇二六五万七一〇〇円との差額三億五九一〇万六四〇〇円を免れた事案である。

右のとおり、三期にわたるほ脱額の合計が四億〇九五三万五一〇〇円とかなりの高額に上っており、三期通算のほ脱率も約八六パーセントとなっている。犯行の動機については、所論にもかかわらず、格別酌量すべきものがあるとは認められない。

この点に関し所論は、(a)昭和六三年一月期における宇都宮市南大通り四丁目所在の土地売買にヨシバ建設を介在させたのは、経済的に困窮していた宏四郎や徹真から懇請され、利益の大部分を納税に回すよりは宏四郎を援助する方が得策であると考えてしたことであり、現実に、同取引で得た金員のうち三〇〇〇万円を宏四郎が取得し、被告会社ないし被告人は一五〇〇万円を利得したに過ぎないから、同取引に際して宏四郎を単なる脱税協力人として利用したものと捉え、利益の大部分を被告人側が取得したと認定した原判決は事実を誤認したものであり、(b)平成元年一月期における相田建設株式会社に対する一億五〇〇〇万円の架空経費の計上は、同社への経済的支援を目的とした支出に関するものであり、これに伴って被告人個人名義で所有権移転登記を経由した各不動産は、その各時価や既存の担保権の内容及び同社の負債の状況からして無価値であるのに、右架空経費の計上による脱税につき、被告人が個人的蓄財のために計画的に行ったものでこれにより多額の利益を得た旨を認定した原判決は事実を誤認したものであると主張している。

しかしながら、(a)については、宏四郎への経済的支援が目的として存在していたとしても、それは単に被告人の個人的思惑に基づくものであって、その手段として脱税をし、国家の課税権を侵害して国庫に損害を及ぼすようなことが多少なりとも正当化されるものとは考えられない。また、三〇〇〇万円を宏四郎が取得したとする所論に符合する被告人及び宏四郎の各供述については、そもそも、これを裏付けるに足りる証拠がないほか、前記取引により得られた簿外資金五五〇〇万円のうち、宏四郎が過半の合計三〇〇〇万円を利得することになったとする点において不自然さを拭えないものである。そして、両名の供述を子細にみると、三〇〇〇万円が一旦実際に宏四郎に交付されたのか、あるいは被告人への返済分であるという二〇〇〇万円については相殺処理とされたのかの点や現金が交付されたという場所の特定に関して食い違いが存することが認められるばかりか、右両名の供述経過をみても、宏四郎の当初の供述は、「司法書士事務所を出たところの駐車場で、被告人から報酬として一〇〇〇万円の束二個合計二〇〇〇万円の現金を貰ったように記憶している。これを手提げ袋に入れて車で東京に行き、何人かの借入先へ返済した。その相手の名前等は言いたくない」というものであり(宏四郎の検察官に対する平成三年一一月一三日付供述調書の謄本)、一方、被告人は、当初は、「昭和六三年二月二九日に残代金決済が終わった後、安田住宅で宏四郎と別れたがその際、宏四郎は残代金のうち五〇〇〇万円を持って行った」などと原審公判廷における供述と大きく異なる供述をし(被告人の大蔵事務官に対する平成元年一〇月二四日付質問てん末書)、その後、「安田住宅の社長室で、宏四郎から、昭和六三年一月に貸した二〇〇〇万円を現金で返してもらった。これは南大通りの土地取引で得た金の中から出たものである」旨を供述したものの(被告人の検察官に対する平成三年七月一六日付及び同年八月三日付各供述調書)、被告人から宏四郎に一〇〇〇万円の現金を渡したことについては何ら触れていなかったものである。以上のとおり、所論に符合する両名の供述は、これを裏付ける客観的な証拠がなく、その間に食い違いも存することなどのほか、いずれも前示の如く場当たり的に変遷していることからすると、到底信用するに値しないものというべきであり、原判決の判断や説示に誤りはない。次に、(b)については、脱税を手段とした相田建設株式会社への経済的支援が(a)で述べたと同様に、格別に脱税を斟酌すべき事情であるとはいえず、また、被告人が個人的に何らの出捐をすることなく、所論指摘の各不動産の所有名義人となったのであるから、原判決の「被告人個人が右不動産を取得するために被告会社の資金を費消したものと評価すべきである」との説示が誤っているとも考えられない。なお、一億五〇〇〇万円の支出に伴って被告人個人の名義に所有権移転登記が経由された各不動産の価値や担保権の設定状況等が所論指摘のとおりであると認められるとしても、原判決は被告人が同不動産の取得により「多額の」利益を得たとまでは認定していないのであるから、この点の所論は前提を欠いている。所論はいずれも採用することができない。

所得秘匿の手段方法をみると、ヨシバ建設等のいわゆるダミー法人を積極的に利用し、多数の架空領収証や契約書を作成させるなど、その態様は巧妙であり、強固な犯意に基づく計画的な犯行であることが明らかである。

被告人は、捜査段階をはじめ、原審及び当審公判廷においても、不自然不合理な弁解を繰り返して罪責の軽減を図っており、真摯な反省の態度が示されているとは認め難い。

以上のとおり、犯情は良くなく、被告会社及び被告人の刑事責任は重いというべきであり、特に、所論にもかかわらず、被告人に対してはその懲役刑の執行を猶予すべき事案であるとは考えられない。

他方、被告人には前科前歴がなく、本件により県議会議員を辞職したほか、被告会社の営業等の事業面でも様々な不利益を余儀なくされるなどの社会的制裁を受けたこと、原審段階でほ脱にかかる法人税の本税のうち一億七五〇〇万円余りを納付したほか、当審段階に至って残余の本税を完納したこと、被告会社の経理処理体制を改善し、二度と脱税に及ぶようなことはしない旨を述べて被告人なりに反省の態度を示していること、本件で主要部分を占める昭和六三年一月期と平成元年一月期の各法人税ほ脱の共同正犯である宏四郎に対して執行猶予付懲役刑(懲役一年六月、五年間執行猶予)の判決が確定していることなど所論が指摘する被告会社及び被告人のために有利に斟酌すべき事情も存する。

以上の諸点を総合考慮して、主文のとおりそれぞれ量刑するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香城敏麿 裁判官 森眞樹 裁判官 林正彦)

別紙 修正損益計算書

<省略>

別紙 脱税額計算書

<省略>

平成六年(う)第三四二号

被告人 株式会社安田住宅

被告人 安田稔

控訴趣意書

被告人らの控訴の趣意は、以下のとおりである。

平成六年八月三〇日

弁護人 和田衛

同 篠崎和雄

同 青木英憲

東京高等裁判所刑事第一部 御中

第一 はじめに

[1] 原判決の誤り

(1) 原判決は、被告会社がその法人税額について、

<省略>

を免れた旨の事実を認定して、被告会社及び被告人を有罪にした。

(2) しかし、原判決の認定した脱税額には、第二(事実誤認)に述べるとおり、昭和六三年一月期の所得を合計で一〇〇〇万(鴨川カントリー関連経費名目分)誤って過大に認定した結果、そのほ脱税額として四、一九九、二〇〇円過大に認定している。

同計算内容は、別紙一の修正損益計算書、別紙二のほ脱税額計算書のとおりである。

また、原判決は、平成元年一月期の所得の認定を、低く見ても、合計で三億五二〇万円(西方ゴルフ関連経費名目分)過大に認定した結果、そのほ脱税額として、少なくとも、一億二七六七万八二〇〇円過大に認定している。

同計算内容は、別紙三の修正損益計算書、別紙四のほ脱税額計算書のとおりである。

(3) 原判決は、量刑の情状として、被告会社の脱税が巨額かつ高率であり、被告人は、経済的に困窮している吉羽宏四郎ら関係者を利用して、巨額かつ高率な脱税を計画的に行なったもので、反省の態度も認められないとして、被告会社に罰金一億円、被告人に懲役二年の実刑判決を言い渡した。

(4) しかし、本件脱税は、例えば、宇都宮南大通り土地取引関連など吉羽宏四郎に対する経済的援助を主目的として、吉羽宏四郎の懇請を受け入れて、形式的当事者として参加させたものや、西方ゴルフ関連のように、利得の大半を吉羽宏四郎が取得しているなど第三(量刑不当)に述べるとおり、本件の脱税をとらえて、原判決のような重い量刑を宣告できる、量刑事情はない。

とりわけ、被告人を実刑に処したことは、明らかな量刑不当である。

このような量刑は、本件脱税の基本的構図の認定の誤りによるものであり、是正されなければならない。

第二 事実誤認(脱税額認定の誤り)

その一 鴨川カントリー関連

〔鴨川カントリー経費名下の支出の経費性-昭和六三年一月期分〕

[1] 原判決の問題点

(1) 原判決は、鴨川カントリーに関連する経費名目で、被告会社がヨシバ建設から受け取った

A:六二・四・五付、五〇〇万円(鴨川カントリーの測量設計代)

B:六二・六・三付、五〇〇万円(鴨川打墨地区測量及び伐採及び設計代)

C:六二・七・一〇付、五七〇万円(鴨川カントリー土質及び水質調査料)

の三通の領収証のうち、A及びBは架空の領収証であるとするが、その最大の理由は、被告会社が実際に経費として支払をしたのであれば、殊更、実際とは異なる名目で領収証を作成しなければならない理由はないという点にある。

(2) そのうえで原判決は、上記Cに対応するボーリング作業以外、ヨシバ建設は鴨川カントリーに関しては何も作業をしていないとの理由で、上記ABは架空経費であると認定している。

(3) しかも、上記ABに対応する金員の流れの存否を確定することなく、仮に被告会社からヨシバ建設に対して何らかの支払いがあったとしても、経費性を伺わせる事情は存しないと断定している。

(4) しかし、これは上記ABに対応する金員の支払いが実際にあり、右支払いは領収証の名目とは異なるものの吉羽宏四郎が現実に行った仕事に対する対価であるという被告人の主張を全く無視し、上記ABは架空経費であるとの予断のもとに、検察官の主張を無批判に受け入れたものと言わざるを得ない。

(5) 本件が脱税にあたるか否かを判断するためには、まず上記ABに対応する金銭の流れがあったか否かを確定し、あったとすればそれがいかなる趣旨のものなのか、経費性が認められるものかどうかが吟味されなければならない。

原判決は、ABに対応する金銭の流れを確定せず、むしろそのような金銭の流れはなかったとの前提に立ったため、その支払いの趣旨については全く吟味がなされなかったと言ってもいい。被告人および吉羽宏四郎は、原審において、Aについては実際に現金の支払いがあり、Bについては貸金と相殺処理した旨の供述ないし証言をしていたが、これを裏付ける客観的証拠がなかったため、その信用性が排斥されてしまった。

(6) ところが、今回の弁護人の調書によって、ABに対応する金銭の流れがあったことを裏付ける客観的証拠が発見された。

以下、ABに対応する支払いがあったことが動かしがたい事実であること、そしてこの支払いの趣旨に関する被告人の弁解が信用できるものであり、これを安易に排斥した原判決には明らかに事実誤認があることを詳述する。

[2] 領収証ABに対応する金銭の流れが実際にあったこと

(1) 原審において、吉羽宏四郎は五〇〇万円を被告人から現金で受け取った旨証言しており、被告人も一〇〇〇万円のうち五〇〇万円は実際に吉羽に支払い、その余の五百万円については吉羽に対する貸金と相殺したと供述している。

そこで、ABに対応する金銭の流れを弁護人において改めて調査した結果、以下の事実が判明した。

(2) 領収証Aについて

<1> まず、後に弁護人が取調請求する証拠から明らかなとおり、昭和六二年三月二七日、栃木信用金庫本店の(株)安田住宅名義口座から、金五、〇〇〇、八〇〇円が出金されている。

このうち八〇〇円は送金手数料であるから、この五〇〇万円は同口座からいずれかの金融機関へ送金されたものであることが明らかである。

<2> 一方、これも後に取調請求する証拠を見ると、前同日付で、東武信用金庫草加支店の(株)ヨシバ建設名義口座に、「カ)ヤスダジュウタク」から金五、〇〇〇、〇〇〇円が振込入金されている。

この入金はその日付、金額、送金主の名義からみて、前記<1>の栃木信金安田住宅口座から出金された五〇〇万円であることは明らかである。

<3> そして、この五〇〇万円は、入出金の時期及びその金額からみて、前記Aに対応する支払であることは明らかであり、被告会社は昭和六二年三月二七日付で五〇〇万円を振込送金という形でヨシバ建設に支払ったうえで、同年四月五日付で吉羽宏四郎からこれに対応する領収証を徴したのである。

この事実は、被告会社の会計伝票上の記載と完全に一致しており、右会計伝票の内容が正確であることを物語っている。

<4> 被告人及び吉羽宏四郎は、この五〇〇万円については現金で授受されたという趣旨の供述をしていたが、これは被告人らの記憶違いであり、実際には振込送金という形で支払がなされていたのである。

(3) 領収証Bについて

<1> まず、後に取調請求する証拠から明らかなとおり、昭和六二年六月三日付で足利銀行新栃木支店の(株)安田住宅名義口座から金五、〇〇〇、〇〇〇円が引き出されている事実がある。

<2> この出金は、その日付及び金額が領収証Bと完全に一致するものである。

<3> 一方、被告人は、五〇〇万円を貸金と相殺した際には、実際に金を銀行から下ろして用意したうえ、これを吉羽宏四郎と話し合ったうえ貸金と相殺することにした旨供述している。

<4> 被告人のこの弁解と前記<1>の事実、並びに被告会社の会計伝票上の記載を総合して考えると、前記<1>の出金は吉羽宏四郎に実際に支払うために五〇〇万円が引き出されたものであるが、これを貸金の返済に宛てることとして相殺処理し、これに対応する領収証Bがその日の日付で作成されたものであると考えざるを得ないのである。

(4) このように、Aについては領収証に対応する金銭の支払のあったことが動かし難い事実であることが明らかになり、Bについても貸金と相殺したという被告人の弁解を強力に支える事実が明らかとなった。

検察官は、領収証ABに対応する金銭の流れにつき、被告会社やヨシバ建設の前記口座を調査した形跡が全くなく、また仮にこれを調査して入出金の事実を把握していたとしても、これを被告人らにぶつけて確認する作業を全く行っていない。

弁護人は、原審において本件の金銭の流れ自体が確たる根拠もなく安易に否定されてしまったため、改めて被告会社の銀行口座を調査した結果、初めて上記のような事実が判明したのである。

[3] 領収証ABに対応する支払がなされた趣旨

(1) このように、被告会社から吉羽宏四郎ないしヨシバ建設に対しては、振込送金ないし相殺という形で合計一〇〇〇万円が支払われている事実が明らかとなった。

そこで、次にこの支払の趣旨を吟味しなければならない。

(2) 一〇〇〇万円の支払の趣旨に関する被告人の弁解

<1> 被告会社では、実際に鴨川カントリーについてボーリング作業を委託するなど(領収証C参照)吉羽宏四郎に仕事をさせていたのであるが、この他にも当時は山源ゴルフや桐生カントリーについても吉羽は被告会社のために情報提供活動等を行っており、また、被告会社では近い将来、西方ゴルフについても同人に地上げ等の仕事をさせることを予定していた。

<2> 山源ゴルフや桐生カントリーについて吉羽の行った情報提供等の具体的内容は、被告人や吉羽宏四郎、吉羽徹真らの供述など原審の証拠関係から明らかであり、当時、ゴルフ場開発を手掛けていた被告会社にとって、吉羽が行ったこれらの仕事がその事業に関連し有益なものであったことは言うまでもない。

<3> 一方、当時吉羽は、被告会社のゴルフ開発事業について専属的パートナーと言ってもいいような立場で仕事をしており、他には特にこれといった収入の途はなかった。そればかりではなく、当時吉羽はそれまでの事業の失敗等から多額の負債をかかえ、その返済に追われており、ある程度の収入がなければ被告会社のために行っていた仕事も継続できない状況であった。

そこで、被告会社としても、吉羽に行わせていたゴルフ場開発関係の仕事を継続させるためには、それまで実際に活動したことに対する報酬と今後の活動費用という意味も含めて、吉羽に対して金銭を支払う必要があったのである。

<4> このように、被告会社は、当時手掛けていたいくつかのゴルフ場開発事業に関して、吉羽が実際に行ったボーリング作業や情報提供活動等の報酬として、またゴルフ場開発に関する今後の活動費用として合計一五七〇万円(領収証AないしC)を支払っていたのである。

(3) 被告人の弁解の信用性

<1> 原審では、そもそも一〇〇〇万円の支払はなかったとの前提に立ったため、被告人の上記弁解は排斥されてしまった。

しかし、前記のとおり一〇〇〇万円の支払の事実が存在したことが証拠上明らかになった以上、まず被告人の弁解に信を置かなければならないはずである。

<2> そして、無罪推定原則及び刑事訴訟法上の立証責任に照らせば、検察官がこの一〇〇〇万円の支払は全く別の趣旨を持つものであり、かつそれは経費性を認める余地のないものであることを合理的な疑いを越える程度に立証しない限り、被告人の弁解は排斥することはできないはずである。

しかし、そもそもこのような支払はなかったものとして事実構成してきた検察官には、この支払の趣旨を立証する術はないのである。

<3> このように、支払の趣旨について具体的な立証手段を持たない検察官としては、これを脱税協力金であると主張するかも知れない。

即ち、一〇〇〇万円のうち実際に吉羽宏四郎の手に渡っているのは五〇〇万円のみであり、その余の五〇〇万円は経費名下に被告会社が取得しているのであるから、五〇〇万円は架空領収証を作成させたことによる脱税協力金である、という主張である。

しかしながら、一〇〇〇万円の架空経費を捻出するために五〇〇万円の脱税協力金を支払ということは、法人税率以上の対価を支払うことになり、被告会社としては何も得るところがないのであって、このような主張が全くナンセンスであることは明らかである。

<4> なお、原判決は、「ブローカーは話が決まって幾らという仕事であり、話が決まらなければ報酬も請求できない」との吉羽宏四郎の検察官調書を取り上げ、実際に話がまとまらなかったものについて報酬を支払う理由はないと断定している。

しかし、被告会社と吉羽宏四郎は当時行っていた個々のゴルフ場開発の仕事に関して報酬割合を取り決めて仕事をしていた訳ではなく、吉羽は、前記のとおりいわば被告会社と提携関係にある専属的パートナーとして働いていたのであって、一般的な業者とブローカーという関係ではないから、本件について前記吉羽調書の理屈(これは本件を脱税として立件するために捜査官が作り上げ押し付けた理屈である)は当てはまらない。

また、原判決の前記認定は、そもそも金銭の支払がなかったことを前提に被告人の弁解を排斥したものに過ぎず、前記のとおり一〇〇〇万円の支払が立証された以上、前記吉羽調書の記載が被告人の弁解を排斥する根拠となり得ないものであることは多言を要しない。

[4] 領収証の体裁について

(1) 以上のとおり、本件ABが架空経費でないことが明らかとなった。

しかし、原判決は、本件が架空経費であることの根拠として領収証ABの体裁を挙げているので、以下、これが架空経費認定の根拠となり得ないものであることについても若干付言しておく。

(2) 実際の名目とは異なることについて

<1> 原判決は、実際とは異なる名目で領収証を作成する理由はなく、被告人の弁解は信用できない、としている。

<2> 確かに、実際の支払の理由が前記被告人の弁解のとおりであったのであれば、領収証にもその旨記載すればよかったと言われれば、そのとおりである。

しかし、経費は売上に対応するものと考えるのが一般であり、売上に対応しない経費を上げても税務上経費として認められないのではないかと考えることはあながち不自然なことではない。

したがって、実際には話がまとまらなかった山源ゴルフ等の名目では経費として認められないと思ったという被告人の弁解には合理性がある。

<3> まして、前記のとおり実際の金銭の流れが立証された一方、その趣旨について経費ではないとの証明がなされていない以上、被告人の上記弁解を排斥する根拠はなにもないといわざるを得ない。

(3) 領収証Bにヨシバ食品の印が使用されていることについて

<1> 原判決は、「ヨシバ食品」印が使用されていることをもって、「ヨシバ建設」印が押収された後に、事後的に作成されたものであり、架空のものであるとしている。

<2> しかし、現実にボーリング作業を行い経費性が認められている領収証Cについても「ヨシバ食品」印が使用されていることを、原審は全く無視している。

<3> 更に、原審の記録を検討してみると、例えば吉羽宏四郎の平成三年一一月二六日付検察官調書の添付資料中にある領収証のように、昭和六二年当時、吉羽宏四郎は本件同様に「ヨシバ建設」印を使用するべきところ、「ヨシバ食品」印を使用している事実があるのである。

<省略>

したがって、当時、吉羽宏四郎がこれらの印鑑をまとめて保持していて、これを不注意ないし無頓着に使用していたため、本来「ヨシバ建設」印を押捺すべきところを間違えて「ヨシバ食品」印を押捺してしまったという吉羽の弁解は信用できるものである。

(4) 領収証Bの筆跡が被告人のものであることについて

<1> これについては、当時、吉羽宏四郎が手を負傷しており、字が書けない状態だったために被告人が代筆したものである。

<2> また、領収証上の文字が被告人の筆跡であることをもって当該領収証が架空のものであるという為には、被告人が吉羽に無断で勝手に領収証を作成してしまったとか、吉羽が架空領収証の作成を拒むのを被告人が強引に作成してしまったという事情がなければ合理的に説明できない。

しかし、当時の被告人と吉羽の関係からみて前記のような事情は全く認められず、かつ領収証Bには「ヨシバ食品」印が押捺されている(これは吉羽自らが押捺したと認めざるを得ない)以上、筆跡が被告人のものというだけで領収証Bを架空のものと断定することはできないはずである。

<3> そして、前記のとおり、この領収証が貸金と相殺した際に作成されたとの被告人の弁解を裏付ける証拠が出てきた以上、単に筆跡が被告人のものであるというだけで、この領収証が架空のものであるとするには余りに根拠薄弱である。

[5] まとめ

以上のとおり、本件については被告会社から吉羽宏四郎側に対して金一〇〇〇万円の支払がなされたことが明らかであること、右支払の趣旨についての被告人の主張には何ら不合理な点はなく、この弁解を排斥するに足りる証拠は全く存在しないことに鑑みれば、右一〇〇〇万円の支払には経費性が認められるべきであって、これを架空経費と認定した原判決には明らかな事実誤認がある。

その2 西方ゴルフ関連

〔西方ゴルフでのヨシバ建設ないし吉羽宏四郎に対する支出額とその経費性-平成元年一月期分〕

[1] 原判決の問題点

(1) 原判決は、ヨシバ建設もしくは吉羽宏四郎が西方ゴルフ場用地の地上げを行なったという実態がなく、同社が被告会社から支払いを受けた金員の中に地上げの報酬が含まれていたとは認められない、と認定した。

(2) さらに、原判決は、吉羽宏四郎が地上げの過程で行なった国土法違反にも、独自の報酬性を認めることはできない、と認定した。

(3) その上で、原判決は、吉羽宏四郎から還流した金を簿外経費として使用したとの被告人の弁解を排斥して、結局、被告会社からヨシバ建設に支払われたとの公表数字一五億のうち、実際に地上げ費用として地権者に支払われた八億一三〇〇万円余りを除いた六億八六〇〇万円余を、すべて、架空経費であるとした。言いかえれば、吉羽宏四郎が西方ゴルフで取得した利益は、一切経費としては認められないと断定したのである。

このことを、原判決は、次のように表現した。「仮に吉羽になにがしかの金が支払われたとしても、それは脱税の協力に対する報酬と認められ、これを被告会社の損金と評価することはできない」。

(4) しかし、このような原判決には、基本的な誤りがある。西方ゴルフの関連で、被告人から吉羽宏四郎に支払われたお金の中から、一体、幾らの金額が被告人に戻され、幾らを吉羽が取得したのか、全く認定できていない点である。

「仮に吉羽になにがしかの金が支払われたとしても、それは脱税の協力に対する報酬と認められ、これを被告会社の損金と評価することはできない」との原判決の結論を導くのに、「なにがしかの金」がどの位の金額なのかを、全く認定していない。

「なにがしかの金」が、大凡にしろ、いつ、どういう機会に、どの位還流して、他方で吉羽が幾らを報酬として受け取ったのか、認定できずに、それがすべて、脱税協力金の範疇に止まるなどという結論を導くことは、到底できない。

(5) 本件は、脱税事件の基本である資産増減法による解明がなされていない、という点で、極めて特殊な事件である。検察官は、吉羽宏四郎から被告人への一部の還流を立証できたにすぎない。

被告人、吉羽の証言等の証拠によれば、被告人から吉羽に支払われた金の過半を吉羽が取得したことが明らかであった。

にもかかわらず、原判決は、その額を認定せずに、「仮に吉羽になにがしかの金が支払われたとしても、それは脱税の協力に対する報酬と認められる」という乱暴な結論を下したのである。

誰が、幾らを取得したのかによって、その金員の趣旨も自ずから変わってくる。本件金員の内、幾らが吉羽宏四郎に流れ、どれ位の割合で被告人に還流したのかによって、その趣旨や被告人らの企図したことに対する認定が自ずから変わってこよう。

(6) 原判決の立場は、被告人が吉羽宏四郎を利用して、吉羽に経費として支払ったかのごとくに偽装して、それを裏で還流させて、被告会社の脱税を行なった、というものである。

しかし、吉羽宏四郎が一体幾らを取得したのかを認定することができずに、あるいは、その認定を意識的に避けて、それでいて、全体が脱税であるといった結論をどうして下すことができるのか。不可解である。

本件脱税の成否や脱税の成立する額及びそれに応じた量刑は、吉羽宏四郎に経費として支払われたものが、本当に被告人に還流したのかどうか、還流したとすれば幾らなのか、どういう意図で還流させたのか、それらを確定してはじめて、還流しない分をも含めた全体を脱税と見るべきなのか、あるいは、その一部のみを脱税とみるべきなのか、といった認定が可能となるのである。

ところが、原判決は、経費として流れた金員の内、どれ位の金額が還流されたのかといった、いわば出発点の認定をしていないのである。どれくらいを吉羽宏四郎が取得したのか、被告人がどれくらいを還流分として取得したのかを、少なくとも概括的に認定することもできずに、吉羽が取得した分をも全部含めて脱税であるといった認定など、できるはずがない。このような認定は、基本的な認定法則に違背したものである。

(7) 本件では、後に詳述するとおり、吉羽宏四郎は、被告人から支払いを受けたお金の半分を優に越える金額を実際に取得して、自らの用途に費消している。いわゆる脱税協力者とかB勘屋とかの取得する、せいぜい脱税所得の五パーセント、多くても一〇パーセントといった分け前とは、その程度が全く異なっているのである。いわば、これら脱税協力者とかB勘屋への支払いとは質的に異なるのである。

原判決は、案ずるに、吉羽宏四郎の取得額について、意識的に認定を避けたものであろう。被告人や吉羽宏四郎の証言等から明らかな吉羽取得額を肯定することは、その全体額を脱税とすることの妨げとなるから、その認定を避けて、敢えて「仮に吉羽になにがしかの金が支払われたとしても、それは脱税の協力に対する報酬と認められ、これを被告会社の損金と評価することはできない」といった、論理のすり替えを行なったものである。

本件では、まず、最初にお金の流れを明らかにして、それにしたがって、どうして、そのようなお金の流れになったのかが、認定されるべきものである。

[2] 西方ゴルフでの金員の流れ

(1) 原判決において、西方ゴルフでの架空仕入れと認定された(平成元年一月期)額は、六億八六四一万六〇〇〇円である。

その内容を、冒頭陳述によって整理し、一覧できる形にすると、〔別紙五〕「西方ゴルフ関係・架空仕入」のとおりである。

(2) 概観すると、次のとおりである。

<1> 昭和六三年五月の一〇〇〇万については、検察官も、論告において、吉羽宏四郎が取得した旨認めている。

<2> 昭和六三年七月の一億三〇〇〇万の支払いの内、四一〇〇万が不明金である。ただし、冒頭陳述では認めていなかったものの、検察官は、論告では、七月に四〇〇〇万を吉羽が使用した旨認めており、それを考慮すると不明金は一〇〇万のみとなる。

なお、この四〇〇〇万は、吉羽の飯塚俊子らに対する借金の返済に充てられたものである。

<3> 平成元年一月の三五〇〇万の小切手支払いは、検察官も、論告で、吉羽がサンフーズ株式会社の井上にそっくり同額の借金返済に充てた旨認めている。

<4> 平成元年三月の二億一一四一万六〇〇〇円の振込中、吉羽が平成元年三月一五日大蔵産業株式会社に対する一二〇〇万円の返済をしたことは、検察官も認めている(冒頭陳述)。同返済は、平成元年三月であるが、そもそも、本件課税は、平成元年一月期における未払金を否認したものであるため、その未払金の使途自体が問題となるのである。

〔別紙五〕に示したとおり、この支払いの内、七九〇〇万円が不明金となっている。

<5> 平成元年三月の一億と二億の約束手形の合計三億の金額は、王子信金への三〇〇〇万の還流が明らかなだけで、二億七〇〇〇万が不明金である。

(3) 以上によると、検察官が、論告までに認めるに至った吉羽宏四郎の西方ゴルフでの取得額は、

<省略>

であり、不明金は、

<省略>

である。

(4) 上記不明金について、吉羽宏四郎の供述(供述調書段階)を整理すると、〔別紙五〕右欄のとおりである。

<1> これによると、昭和六三年七月の一〇〇万は、被告人への還流額九〇〇〇万(ただし、内、五〇〇〇万は被告人からの借財の返済分と供述)から、王子信金の五〇〇〇万の定期預金と新日本証券での三九〇〇万の株式取得を差し引いた一〇〇万であり、被告人に対する借金の返済かどうかは別論としても、被告人に戻っている。

<2> 平成元年一月の七九〇〇万については、吉羽宏四郎の供述によると(その供述は捜査、法廷を通じて一貫している)、吉羽が、この機会に取得した金額が六一〇〇万であり、その中から一二〇〇万大蔵産業株式会社への借金返済に充てているので、不明金中四九〇〇万を吉羽が取得し、不明金中三〇〇〇万は被告人に戻されたお金の中に含まれていたものと理解できる。

<3> 平成元年三月の不明金二億七〇〇〇万については、吉羽宏四郎の供述などによると、一億の手形が平成元年五月一九日に現金化され、内七〇〇〇万を吉羽が取得、三〇〇〇万を被告人に渡し、二億の手形は元年六月二日に現金化され、内一億七〇〇〇万を吉羽が取得、三〇〇〇万を被告に渡したものである。

(5) 吉羽宏四郎の供述は、基本的には、捜査、公判を通じて一貫しているが、(3)、(4)を纏めると、吉羽の取得額は、

<省略>

被告人への還流額は、六億八六四一万六〇〇〇円から、三億八六〇〇万を差し引いた三億四一万六〇〇〇円である。

ただし、吉羽の供述によると、昭和六三年七月の被告人への還流額九〇〇〇万の内、五〇〇〇万は被告人からの借財の返済分として自己用途に使用したものであり、その点の補正を加えると、本件の架空仕入認定額六億八六四一万六〇〇〇円は、

吉羽宏四郎が四億三六〇〇万

被告人が二億五〇四一万六〇〇〇円

を取得したのである。

(6) 原判決は、吉羽宏四郎が西方ゴルフの関係で、このような多額の報酬を取得するに足る役割、仕事をしていない旨の認定で、このような、被告人と吉羽宏四郎の、各取得額、還流額についての供述を排斥しているものと理解できる。

しかし、問題の本質は、まず、吉羽宏四郎が真実、幾ら取得したのかであり、その点について、証拠上どう認定できるのかである。

〔別紙五〕のとおり、国税、検察の徹底した捜査により、吉羽宏四郎から還流された金については、仮名口座への入金など殆ど解明されている。

それ以外の〔別紙五〕の不明金について、直接当事者である吉羽宏四郎、被告人の供述は、基本的には、捜査、公判を通じて一貫しているのである。

このような直接の証拠に対して、この不明金も還流したはずであるとの何らの証拠もないのに、原判決のような排斥の仕方は、論理的にも許されない。

原判決は、吉羽宏四郎が、いわば多額の報酬を取得できるような大したことをしていないから、そのような吉羽に多額の金を渡すはずがない、というだけの経験則というか、思い込みを適用して結論を導いているが、現実に幾ら支払われたのか、その証拠はどうなのかを確定して、それにしたがって趣旨等の認定がなされるのが、事実認定である。

(7) 吉羽の借財返済の状況(その一)

前述の吉羽宏四郎の多額の取得額については、その間における吉羽の借財返済状況からも、裏付けられる。

<1> 前述のとおり、検察官も認めている西方ゴルフ収入からの、借財返済は、

<省略>

<2> Aは、被告人からの借入であり、金利を計算しないとしても、他のBないしDは、すべて、高い金利のついた借財である。

この内、Bは、飯塚俊子を通じた高利貸し(越谷の住吉連合組長)からの借入(元本三〇〇〇万)の返済と榊原からの五〇〇万の借入の返済に充てたものである。

飯塚を通じた借入期間は昭和六三年七月返済までに、一年半を越えており、月一割を越える利息を支払わされていた。したがって、昭和六三年七月までの間に、このB関連だけでも、少なくとも、吉羽は五〇〇〇万円位の金利を支払わされている。

<3> Cは、サンフーズ株式会社(井上社長)からの借入(三五〇〇万)を返済したもの。

この三五〇〇万は、昭和六一年に二〇〇〇万を借入れ、その後に追加借入をしたものであるが、吉羽は、平成元年一月の元本返済まで月三分の金利を支払っていた。その金利額は、この間の借入平均を低めに二五〇〇万とし、借入期間を三年として計算した場合、サンフーズ側に対する支払い金利は二五〇〇万を越えている。

井上は、僅か数一〇万の金利を受け取っただけであると供述しているが、全くの嘘であり、およそその供述内容自体からして信用できない。

<4> Dは、貸金業者の大蔵産業株式会社からの一二〇〇万の借入である。大蔵産業からは、昭和六二年一一月一三日に借入(吉羽慶佑所の不動産の担保設定時期から明らか)、平成元年三月一五日に返済しているが、同社の金利は、日歩七銭で借入日数が四八八日で、その間の金利は、約四一〇万円となる。

<5> 以上のように、西方ゴルフ関連で吉羽宏四郎が被告人から受け取った金により元本を返済したことの明らかな借入先(検察官も認めている分)について見ただけでも、吉羽が西方ゴルフに関わっていた時期(その関与の程度について争いはあるにしろ)に、吉羽は、これらの借入の相手方に、約八〇〇〇万円位の金利を支払わされているのである。

<6> なお、吉羽宏四郎は、昭和六〇年夏ころから、同六二年六月ころまで、これらの借入をしてコマンダーの営業等を行なったが、事業失敗して、借入が増加しただけであった。被告人からもコマンダー事業資金として借入を受けていたのである。吉羽がこのような自らの事業によって全く利益がなかったことは、検察官も認めているところである(冒頭陳述参照)。

要するに、吉羽には、借財返済について、他の財源など到底ない状況であり(これに反する証拠はない)、高利の借金を借りることを繰り返して、その借金額が、膨らんでいったのである。

それらが、被告人からの吉羽に支払われたお金によって、返済がなされたというのが、疑いもない事実である。

これらのAないしDだけを見ても、元利合計すると、一億七七〇〇万となる。当然、借入金で、他の支払い金利に充てるなど、それらの中に多少の重複は含まれる可能性はあるとしても、西方ゴルフでの取得金からAないしDだけでも、一億をはるかに越える金員を元利の支払いに費消したことは明らかである。

(8) 吉羽の借財返済の状況(その二)

<1> 吉羽の借財は、(7)以外にも多額に存在し、吉羽は、当然、これらの支払いをもしていたものと認められる。

<2> 中山昇ら多数の者からの借入

吉羽宏四郎は、中山昇ら多数の知人から借金をし、また、兄弟からも借金をしていたことが記録上明らかとなっており、それらの負債も、相当な多額にのぼっていた。被告人から吉羽への金は、当然これらの借財にも返済にも相当な額が充てられたものと理解できる。

<3> ヨシバ建設の当座預金の小切手帳の耳と吉羽の負債

吉羽宏四郎の営んでいた株式会社ヨシバ建設は、昭和六二年一月一二日に、東武信用金庫草加支店に当座預金口座を開設している。

吉羽は、同信用金庫から小切手帳の交付を受けていたが、吉羽の手元にあった同小切手帳の控え(いわゆる小切手の耳)を見ると、吉羽が小切手を発行して金融を受けていたことが明らかである。これらの控えは、控訴審において、提出する。

同小切手の耳の綴りは、たまたま昭和六三年五月から昭和六四年一月の先付期日で振り出したものであることが、記載上理解できる。それらの小切手帳の耳の記載を一覧すると、〔別表一〕当座預金小切手帳控一覧表のとおりであり、吉羽が、これらの期間だけを見ても、榊原、野村博、井戸、吉原らから、小切手をかたに借金を繰り返していたことが明らかである。

なお、これらの小切手控えの金額を合計すると、七八〇〇万円余りになる。ただし、切替え分が重複してると思われるので、これら小切手による借金の額は、これらの耳からだけでは、正確には分からない。しかし、吉羽が、多数の者から、借金を繰り返していたことだけは、間違いない。これらの小切手は一通を除いて(榊原に対する五〇〇万の小切手だけは取立に回って決済になっている)、取立には回ってきておらず、吉羽が返済して小切手を回収したものと理解できる。吉羽が、その後これらの借金に追い回されなくなった状況からしても、かなりの部分を返済したものであり、その財源は期間的にも、被告人から支払われた金員が相当部分充てられたものと推認できる。

<4> ヨシバ建設の当座預金への送金状況

弁護人は、原判決後に、東武信用金庫草加支店に当座預金元帳写しを照会した。その結果によると、同支店の株式会社ヨシバ建設の当座預金には、昭和六二年一〇月二九日から昭和六三年七月一二日までの間に、同当座の決済資金に充てるため、吉羽宏四郎または株式会社ヨシバ建設本人が入金した金額が、〔別表二〕当座預金入金一覧表のとおり合計一八〇〇万余りあり、これらの資金を吉羽本人が調達したことが明らかである。これらも、期間的に、被告人から支払われた金員が相当部分充てられたものと推認できる。

(9) 吉羽の借財返済の状況(その三)-向井忠幸に対する返済

<1> 吉羽の借金返済中、もっとも多額で纏まっているのが、平成元年六月一五日の向井忠幸に対する二億円の返済である。

<2> 吉羽は、大阪でヨシバ食品を経営していたころ、向井から事業資金の融資を受けていた。向井は、ある程度の高利を取るかわりに、吉羽に無担保で融資をしていたのである。吉羽は、向井からの借金を繰り返し、それが金利を含めて、累積していき、ヨシバ食品株式会社が倒産した昭和五九年六月には、二億近い金額に達していたのである。

<3> 吉羽が、その巨額の借金を返済できないでいたことは、その後の吉羽のコマンダー事業失敗等から、明らかであり、吉羽としては、向井に時々金利を運んでは、猶予を受けていた。昭和六三年ころには、吉羽は、向井に、近い内にゴルフ場の地上げで、纏まって入ってくるから、それで返す旨述べていた。

<4> 吉羽が、平成元年五、六月に一億と二億の手形の取立、現払時に取得したと述べている二億四〇〇〇万円は、その内、殆どの二億円が向井への返済資金に回されたのである。

<5> 本件では、この向井に対する二億円の返済が真実かどうかが、極めて大きな意味を有する。被告人から吉羽への支払額が、大きく異なってくるし、それに応じて、本件支払いの趣旨や動機の認定が、根本的に左右されてくるからである。

仮に、吉羽や向井が明確に証言するとおり、向井に対する二億円の返済がなされたのであれば、他に吉羽に財源などあろうはずがなく、被告人が自らの脱税のために、吉羽をいわゆるB勘屋として利用したといった本件に対する基本的な構図、見立てが根本的に間違っていたことになるのは、自明である。

<6> 原判決は、吉羽や向井の証言を、「返済に関する供述があいまいで、その内容がいかにも不自然不合理であること」、「吉羽は金の使途につき捜査段階と大きく異なる供述をしたことについて合理的説明ができていないこと」から、到底信用できない旨述べて、排斥した。

しかし、吉羽、向井の供述する、どの点が不自然、不合理なのか、先のとおり被告人の罪責を決するとも言える大きな問題に対して、原判決の排斥理由は、説得力がなさすぎよう。吉羽が多額の報酬を受け取れる理由がないという前提を作り上げた後に、金の流れがあったのかなかったのかの認定を行なうという誤りを犯しているために、最初から否定の答えを用意して、排斥しているといっても過言ではない。原判決の排斥理由は余りにも説得力がないし、そもそも真剣な検討がなされたとは思えないのである。

弁護人としては、以下、原判決が、「いかにも不自然不合理」とした点を、推測しつつ、自問自答しながら、述べるしか術がない。

<7> 向井が、担保も有していない吉羽に対して、それ程多額の貸金を有していたのか。無担保の吉羽に、それ程貸していたという証言は、不自然不合理ではないかとの疑問について。

吉羽が、ヨシバ食品経営当時、不動産等を有していた事実はなく、だからこそ、向井のような大きな金を動かしている人物から高い金利で、事業資金を借り受けていたのである。吉羽が、ヨシバ食品経営当時及びその倒産時に、向井から多額の融資を受けていた事実は、次の点から明らかである。

(ⅰ) 向井は、自らの大阪商銀の手形割引枠を利用して、吉羽に融資をしていたものがあった。

吉羽にヨシバ食品の約束手形を切らせて、向井自らが裏書きして、大阪商銀で割引き、その金を吉羽に高利で融資することによって、自ら資金の準備をしないでも、高金利の融資をすることができた。

そのような形式による融資が累積していたことは、吉羽から提出を受けた約束手形多数(向井に対する今回の二億円の返済時に返還を受けたもの)により、明らかである。それらは、手形の存在自体から、右融資の証拠であることが明白である。

吉羽が返還を受けた約束手形中、このような割引がなされていたものを一覧すると、〔別表三〕の一ないし五のとおりである。

向井が返還したものは、その手元にあったもののみで、厳密にすべてを吉羽に返還したとは思えず、弁護人が吉羽から入手したこれらの割引手形は、ごく一部でしかないと思えるが、それらの手形の合計額は、金二八七〇万円に達する。

<省略>

これらの約束手形は、当然ヨシバ食品の不渡りにより、向井が裏書人として銀行に償還して、向井の手元にあったものである。これからすれば、吉羽が向井から多額の借入を有していたこと、ヨシバ食品倒産当時、多額の借入額が残ったことは疑いようがない。

これらの約束手形類は、当事者が事後に作出することはできないものであり、向井が多額の融資をしていたことは、これらの客観的な証拠が明白に物語っている。

(ⅱ) 向井は、(ⅰ)のような手形割引枠を利用できない場合には(割引枠を越えている場合など)、吉羽に対して、ヨシバ食品の約束手形を証書代わりに発行させて、自己資金を融資していた。

そのことは、吉羽が差し入れた約束手形で、印紙貼付がなく期日等も白地の約束手形の存在によって、裏付けられている。

そのような手形を証書代わりにしていたことは、吉羽から提出を受けた約束手形多数(割引手形と同様、今回の二億円の返済時に返還を受けたもの)により、明らかである。

<省略>

吉羽が返還を受けた約束手形により、このような手形を証書代わりに融資を受けていたものを纏めると、〔別表三〕の六ないし一一のとおりである。

(ⅰ)(ⅱ)の手形を総合すると、吉羽が向井から極めて多額の借入をしていたことは歴然としている。

<8> 向井が昭和五九年当時の貸金を平成元年まで放置していたのは不自然不合理ではないかとの疑問について。

この点については、当然、向井としては、ヨシバ食品の倒産後、自らは銀行に償還するなどしたのであるから、吉羽に返済するように、強硬に責めたと思われる。しかし、返済しようにも、その後の吉羽の事業や借財の状況を見れば、吉羽がこのような多額の借金を返済しようがなかったことは、明らかである。

したがって、向井が放置していたというより、吉羽を、返済するように厳しく要求し続けた結果、吉羽がたまたま西方ゴルフで入った金で、長年の懸案を解決したものと理解できる。このような経過に何ら不自然不合理な点はない。

<9> 仮に吉羽が向井に借入があったとして、本当に返したのか、未だに返していないのではないか。返した証拠はあるのか、との疑問について。

(ⅰ) 吉羽が前記の手形類の返還を受けていること。

(ⅱ) 向井がこの点について、証言で嘘を述べる理由はないこと。

向井にとって、仮に返済を受けていないのに、受けた旨証言することは、向井が吉羽に返済を要求するについて、大変な不利益となる。

(ⅲ) 向井は、吉羽から返済を受けた資金を、即日、同様に向井が以前から貸付を行なっていた玉井清一に融資している。

この玉井は、平成元年当時、オールゴルフの商号でゴルフ会員権の売買を業としていた者である。弁護人は、原判決後玉井の所在を調べて、事情を聞くことができた。玉井も向井から、かねてから無担保融資を受けていたもので、平成元年六月に向井から二億の融資を受けて、これを、当時のゴルフブームで一億以上した常陽カントリーなどの高額のゴルフ会員権買取資金に充てたのである。

玉井は、控訴審で、その経過を証言してもよい旨弁護人に約束してくれた。

このように吉羽が返済したと全く同じ時に、玉井が向井から二億の融資を受けていることや、約束手形を吉羽が所持していたこと(吉羽がそれを所持していたこと自体、近時に返済したものであることを窺わせる)から、吉羽が、その供述するとおり、被告人から支払いを受けた金員の中から二億円を向井に対する返済に充てたことは、明白である。

<10> 原判決は、前述のとおり、「吉羽は金の使途につき捜査段階と大きく異なる供述をしたことについて合理的説明ができていないこと」をも、信用できない理由に掲げたが、吉羽は、捜査当時から、これを借財の返済に充てたことは一貫して述べていたのであり、そもそも、捜査段階と大きく異なる供述をしたというのが誤認である。吉羽としては、向井に大変な恩になっており、向井が金融の収支を表に出しておらず、国税査察官の聴取に対しても、吉羽が貸していた事実を否定していたため、その名前を出すことができなかったのである。吉羽は、公判になってから、向井の名前を出せず真実を隠しているために、向井同様に大恩ある被告人に迷惑を掛けていたことから、向井の了解を得た上で、その名前を出して、向井への返済の経過を述べたのである。

吉羽が、公判段階で向井への返済を述べた事情は、十分合理的に納得できるものであり、原判決は、あえて理由にならないことを理由にしたとしか解し得ない。

<11> 原判決は、吉羽の二億の返済を不自然不合理というが、これまで述べた事情、とりわけ向井と吉羽との貸借など、吉羽らが謀っても遡って作出しようがなく、それらの歴然たる証拠を無視した認定こそ、認定側に違背したものである。

なにより、最強の捜査機関である国税、検察当局の徹底した捜査にもかかわらず、平成元年五、六月の三億の内、二億七〇〇〇万円が、被告人側に還流した証拠が皆無であることこそ、余りに不自然不合理というべきである。還流した分については、〔別紙五〕で見たとおり、ちゃんと解明されているのであり、これだけの巨額が被告人の側から見つからないこと自体、還流したにしては、余りに不自然不合理である。前述の証拠を無視して、あえて、このような不自然不合理な認定をすることは、到底許されないものと言わねばならない。

(10) まとめ

以上、西方ゴルフの地上げの時期における吉羽の債務返済状況、被告人からの吉羽への支払いの一部で返済をしたことが明らかな債務返済、とりわけ向井に対する二億円の返済など、これまで述べた事実関係を総合すれば、前述の吉羽が被告人から幾らを受け取ったのかについての供述、証言が、その金額的な規模においても十分信用するに足りるものであることは明らかである。

すなわち、本件西方ゴルフで架空経費支出とされた六億八六四一万六〇〇〇円中、吉羽の取得額は、三億八六〇〇万円で、被告人への借金支払額をも含めると、四億三六〇〇万円になり、他方、還流した金額は実質的には二億五〇四一万六〇〇〇円にすぎないのである。

[3] 脱税協力金の相場

脱税事件の際に、いわゆる脱税協力者とかB勘屋に支払われる脱税協力金ないしは脱税報酬金は、通常は偽る所得額のせいぜい五パーセント程度であり、多くとも一〇パーセントの額であることが過去の裁判例等から公知の事実である。

法人税の税率は、事業所得八〇〇万以下が二八パーセント、八〇〇万を越える事業所得につき三七・五パーセントである。仮に損金一〇〇〇万を仮装計上したとして、三七五万の税額を免れることになるが、単なる領収証を発行するか、それに付随した作業しかしない脱税協力者に対して、どんなに多くても、その内一〇〇万も支払うというのが限度であるのは、当然であろう。

そうすると、本件では約六億八六〇〇万円余をヨシバ建設への支払い経費に充てたと仮装したというのであるから、脱税協力金は多くても約六八〇〇万円程度である。

原判決のいう「仮になにがしかの金」が支払われたとしても、というのは、具体的には、限度として、この六八〇〇万円ということを意味しよう。

ところが、これまで見たとおり、本件西方ゴルフの関連では、検察官の認める吉羽の取得額でさえ、前記[2]のとおり、九七〇〇万であり、弁護人の主張では、その取得額は四億三六〇〇万円に達するのである。

六億八六〇〇万円の仮装経費計上によって免れた税額より、はるかに多い金額を吉羽が取得したのであり、単なる脱税協力金の範疇に止まるといった説明はおよそ不可能である。

原判決の事実誤認は、明らかである。

[4] 被告人から吉羽への支払の理由

(1) 地上げの総括的役割、対外的当事者としての役割

原判決は、ヨシバ建設がいわゆるペーパーカンパニーであったこと、被告会社にとってこのようなヨシバ建設に事前協議終了後に地上げを請負わす必要性合理性がないこと、吉羽は昭和六二年一二月の事前協議終了以前は地上げに従事しておらず、その後もほとんど現場に来ていないとの事実を認定し、同社もしくは吉羽が西方ゴルフ場用地の地上げを行ったという実態はなく、同社が被告会社から支払を受けた金員のなかに地上げの報酬は含まれていない旨判示している。

しかし、当時、被告人がヨシバ建設に西方ゴルフの地上げを請け負わせる必要性合理性は存在していた。

以下、詳述する。

<1> 被告会社は昭和六〇年二月一三日に設立されたばかりであり、被告人も、当時未だゴルフ場開発には精通していなかった。

西方ゴルフ場開発が具体化してきた昭和六一年頃は、ゴルフ場開発という大規模開発のための用地取得作業すなわち地上げに関しては、充分な経験と知識を保有している状態ではなく、被告人自身にも、ゴルフ場に必要な用地の全部を地上げする十分な自信がなかった。被告人としては、地上げが途中でうまく行かなかった場合に、地元での批判が起きることを大変に恐れていた。そのため、対地元や自治体との関係において、自らが地上げの主体、当事者となることができなかった。

このため、被告人は、当時ゴルフ場開発に関して、継続的なパートナー的立場で情報提供や現地調査などしてくれていた吉羽宏四郎に、一括して下請けをさせて、吉羽を当事者としたのである。

吉羽にこのような纏まった仕事を出したのは、かねて、県立栃木高校の同級生であった吉羽徹真から、吉羽が事業で失敗して借金で困っているので、被告人の方からも色々仕事を出してやって、助けてやってほしい旨頼まれ、吉羽本人からも、再三、仕事を請け負わせてほしい旨懇請されていたからであった。

<2> 被告人が、自ら地上げの当事者として出ることができなかったのは、専ら、対地元、自治体の評判や失敗した場合の非難を恐れたためである。被告人は、長年の夢であった政界進出のため、昭和五八年の栃木県議会議員選挙に初めて立候補して落選しており、次の県議会議員選挙が昭和六二年四月に予定されていたが、この選挙にも立候補する予定で準備を進めていた。

そのため、被告人は立候補に際して、地元の有権者からの噂、対立候補からの非難・中傷を避ける必要があったが、ゴルフ場開発という大規模開発には、どうしても避けられない有力者・地権者へ支払う裏金の処理、用地買収をめぐる地権者とのトラブルの処理、また開発が失敗した場合には地権者からの非難を受ける外、ゴルフ場の開発主体である鴨川ゴルフからは法的責任を追及される恐れもあり、さらに開発が成功した場合でも、被告人がゴルフ場で大儲けをしたという選挙戦には芳しくない評判が生ずる恐れがあった。そこで、被告人は、これらの問題の処理を全てヨシバ建設に委ね、上記の諸問題が発生した場合には全てヨシバ建設に請負わせており、被告会社は直接の当事者ではないとの形を取る必要があったのである。そのため、ゴルフ場用地の地上げをヨシバ建設に請負わせる必要性があったのであり、被告人ないしは被告会社にとっては合理的なものであった。

<3> しかも、被告会社にとってはゴルフ場という大規模開発は初めての経験であったことから、被告人自身も地上げ自体で、それ程多額の利益が生ずるとは考えていなかった。

本件の請負価格が決まっていった経過を見ると、このことが理解できる。

被告会社は、鴨川ゴルフとの間で、総額一五億円(内、許認可業務費用三億円)とし、許認可申請業務等は被告会社で行うが、用地買収はヨシバ建設で行うということで合意するとともに、ヨシバ建設との間で西方ゴルフ場用地買収請負の合意をしたのである。被告人としては、当時、専らコース設計を含んだ許認可申請関連の業務で利益を上げることを予定していたのである。

その後、被告人は、昭和四七、八年ころの第一次ゴルフブームの際に西方ゴルフ場建設予定地の近隣に存する開発された大倉カントリークラブ及び真名子カントリークラブの地上げ費用が一反三〇〇~四〇〇万円であったことを聞き及び、この値段を知っている地権者を買収予定費用内で説得するのは困難であると考えた。

そこで、被告人は、資金元の鴨川ゴルフの田中宏に用地買収費用として三億円の値上げを要請したが、鴨川ゴルフでは資金の手当てができないことから、別のオーナーを探すことになった。結局、ハザマ環境開発が二三億円で買収することになり、その結果、鴨川ゴルフとの間では被告会社への支払額も総額一八億円との口頭の合意がなされた。被告人としては西方ゴルフ場の開発予定地の公簿面積が約五〇町歩であり、一反三〇〇万円で買収しても一五億円となるため、地上げは何とか成功すると思ったが、地上げそのものによる利益はさほど大きいものではないし、従来どおり地上げに関してはヨシバ建設に請負わせ、あくまで、自ら、地上げの当事者となることを避け、自らの利益は専ら許認可申請業務等により上げるものと考えていた。

昭和六二年一二月二九日、鴨川ゴルフは、ハザマ環境開発との間の二三億円の売却協定を破棄し、ダイヤモンドゴルフ株式会社に三五億円で売却したため、この値上がりに応じて、鴨川ゴルフと被告会社との間では被告会社への支払額は総額二五億円との口頭の合意がなされるようになった。

そこで、昭和六三年一月一〇日、被告人はこの合意に基づき、株式会社西方ゴルフクラブと被告会社との間の二五億円の覚書を作成した。合わせて、被告会社の受ける報酬の増加に応じて、ヨシバ建設との間の請負価格も修正した。その結果同日、株式会社とヨシバ建設との間で、県南不動産への支払分一億三〇〇〇万円を含めて一八億八〇〇〇万円の覚書を作成し、ヨシバ建設が地上げの一切の責任をとることを吉羽と再確認した。

被告人としては、ヨシバ建設への支払分が一七億五〇〇〇万円と増えることになるが、この間、西方企画との用地取得競争もあり、その関係で国土法違反の処理もヨシバ建設に委ねることになったし、第一次ゴルフブームの際に一反当たり三~四〇〇万円で買収されていた事実から地上げによる利益はそれほどは見込めないとも考えていたこともあり、従来の流れの中でヨシバ建設へ地上げを請負わせた。また、被告会社の方では許認可申請業務その他で六億二〇〇〇万円の収入になることから、特に地上げによる利益を期待する必要もなかったのである。

以上のような経緯で、被告会社がヨシバ建設に地上げを請負わせたのであり、架空の請負額を作り上げたというものではない。

<4> 原判決は、吉羽が昭和六二年一二月の事前協議終了以前は地上げに従事していなかった旨認定した。原判決の趣旨は、事前協議が修了した後に地上げに初めて関与させて請け負わせるのは不合理であるというのであろう。

しかし、吉羽が事前協議終了以前に地上げに関与していなかったというのは、原判決の事実誤認である。

被告人は、平成元年一一月二日付の査察官に対する質問てん末書において、「地権者からの同意書取得作業にも吉羽宏四郎が関わっていた。吉羽は、同意書取得の作業に際して、地権者に対する手土産として酒・菓子折等を負担していた。吉羽から費用が色々かかっている旨泣きつかれたので、私は、酒代や菓子折の領収証を吉羽から預かり、それを持って西方ゴルフの田中宏を尋ね、五〇〇万円の手形を貰ってきた。その手形は田中宏から貰って間もなく吉羽へ渡した」旨供述している。

<省略>

この供述は、弁第四九号証((株)ヨシバ建設作成、昭和六二年二月二七日付、五〇〇万円の領収証)の領収証の記載と金額、支払方法、宛先、支払名目において一致している。

この弁第四九号証の領収証には株式会社ヨシバの押印がなされていることから、作成されたのは、株式会社ヨシバの印が押収された昭和六三年二月二四日以前であり、被告人らが遡って作出する余地のないものである。

また、今回、弁護人が、株式会社ヨシバ建設の東武信用金庫草加支店の当座預金口座を照会したところ、たまたま、昭和六二年三月九日五〇〇万円の他店券の入金があり、さらにこの他店券の写しを照会して入手したところ、まさにこの他店券が鴨川ゴルフアンドカントリー田中宏振出のものであることが判明した。

これにより、前記被告人の五〇〇万円支払いの経過に関する供述が信用性に富むものであることが明らかになった。

この五〇〇万円支払いの経過から理解できるとおり、既に、昭和六二年二月二七日には、鴨川ゴルフアンドカントリーから株式会社ヨシバ宛てに西方ゴルフクラブの地上げ運動費として五〇〇万円の手形を支払う状況だったのであり、吉羽宏四郎が事前協議終了よりはるかに前の段階から地上げに関与していたことは明らかであり、原判決の前記認定は誤認である。

<5>原判決は、吉羽宏四郎が地上げに関与した実態がないと認定している。本件地上げは、専ら、秋山、中野が実働部隊で、その部隊長が吉羽徹真であるが、吉羽は、実弟の徹真で通じて、本件地上げを監督し推進していたのである。吉羽が現場の作業を余りしていないから、請負の実態がないというのは、論理的ではない。あくまで、地上げの主体、当事者としては、ヨシバ建設が行っていたのである。

本件では、以下のとおり、吉羽宏四郎がある程度は地上げの現場で関与しているのである。原判決のような認定では、どうして、吉羽が地上げの作業に関わる必要があったのか、説明ができない。

証拠上、出てくる吉羽宏四郎の関与状況を列記すると、次のとおりである。

(ⅰ) 吉羽徹真の調書から

・被告会社に時々顔を出していた。

・吉羽徹真と一緒に交渉をしたこともある。吉羽徹真の地主交渉を時々手伝っていた。

・事前協議終了前、地権者の若林清一が県に提出した西方ゴルフ場建設反対の陳情書に偽造書面が含まれていたことから、吉羽の親友の四位弁護士を被告人に紹介し、被告人とともに同弁護士に相談に行った。

・国土法の届出書類に地権者の判を貰う作業を吉羽も一部地権者のところへ顔を出した。吉羽は挨拶程度であるが、徹真が行う交渉に付き合っていた。

・吉羽が地上げに関わるようになったのは、昭和六二年の夏頃からである。

・国土法に違反して買収する土地の範囲を被告人と吉羽と徹真が土地の現況図を見ながら、どの範囲が買えるか相談し徹真が買収予定地を指示し、被告人及び吉羽が買収地を決定した。

・大島茂所有の飛地についても、交渉が難航している若林、早乙女の土地と将来的に交換するため買うことにしたが、徹真は被告人及び吉羽に相談した。

・吉羽は、監督的な立場で徹真と一緒に西方村に入り、徹真らの実際の地上げの様子を見ていた。

・吉羽は、若林ツル、大島茂、鈴木茂市の三人の家に行って地権者と会った。

・若林ツルについては、吉羽は徹真に「早く決めてくれ。俺も一緒に行く。」と言い、徹真に同行した。

・坂本さんの家には吉羽は徹真と一緒に何度か家の前まで行ったが、不在等で直接顔を合わせたかどうかは明確ではない。

・地権者とあまり顔なじみでない吉羽を連れていくと地権者の態度が変わるといけないので、徹真は吉羽が出てよいかどうかの判断をしていた。

・吉羽は地権者の半分くらいは顔を出した。しかし、地権者と細かい話をするわけではなく、挨拶程度であった。

・徹真は、吉羽を車に乗せて、六三年の一月に地権者の家を年始の挨拶回りをした。

・大島茂については飛地を買う前の交渉から吉羽が関与している。

・萩原三郎の家にも吉羽は顔を出していた。

(ⅱ) 中野義一の調書から

・徹真から、俺の兄貴だと吉羽宏四郎を紹介された。時期ははっきりしないが、同意書を貰う作業を行うより前だったような気がする。

・記憶では吉羽は一度だけ地権者の家を尋ねたように思う。大島茂の家であった。吉羽兄弟と私、秋山さんで訪ねたという記憶である。

・吉羽は、地上げについて事務所になっていた私の家に二、三回来たことがある。

(ⅲ) 秋山正好の調書から

・吉羽宏四郎とは昭和六三年に入って一度だけ中野さんの家で会っている。

・吉羽に初めて会ったのは予定外の地域を買収する交渉にかかったころ。

・吉羽は、渡邊洋子の土地取得に際し、一度、地権者のところへ顔を出したような気がする。

以上のように、実働部隊の中野、秋山とは余り接触がないものの、共に行動する場面もあったし、その部隊長の徹真とはある程度頻繁に接触して、指示監督を行っていたのである。

名義のみの関与であるならば、このように地上げの過程で吉羽の姿がかいま見えることの方が不自然不合理であろう。

(2) 国土法違反

<1> 原判決は、国土法違反に対する制裁が極く軽微なものに過ぎないこと、軽微処分後の平成元年一月三一日以降に三億円あまりという多額の報酬がヨシバ建設に支払われた等から、吉羽の国土法違反協力に対する報酬が高額であった旨の供述は不自然・不合理で信用できず、吉羽の国土法違反行為に対して何らかの報酬が支払われたとしても脱税協力報酬の一部であると判示した。

<2> しかし、原判決は国土法違反行為に対する制裁面のみを捉えて判断しており、その経済面における効果を全く度外視している。報酬を決めるに際しては、専ら経済面における寄与の度合いが考慮されるのであり、その行為に対する制裁の大小により報酬額が左右されるのは極めて稀な事である。

確かに、吉羽の国土法違反行為に対しては始末書の提出という極く軽微な処分で済んでいる。しかし、西方ゴルフ場の開発により生ずる経済的利益に対する吉羽の寄与の度合いにおいては、吉羽による国土法違反行為がなければ競合していた西方企画との競争によりゴルフ場用地の買収が不可能になった可能性が極めて高いものであったから、多額の報酬に値すると開発当事者が考えても不自然でも不合理でもない。

<3> また、被告人は、昭和六二年の西方村の事前協議書の正式受理のころから、グレードの高いゴルフ場とするためには申請面積である九八ヘクタールでは不足であり、さらに一〇ヘクタールの地上げが必要であるが、国土法に基づく申請をしていたのでは西方企画に妨害される恐れがあると考え、国土法違反の問題の処理、すなわち行政に対する責任、その他地元からの非難をヨシバ建設に委ねることにしたのである。

その結果は、昭和六三年一月一〇日の被告会社とヨシバ建設との間の覚書に集約された。すなわち、ヨシバ建設に対する国土法違反の報酬は結果として数億円ということになっているが、覚書締結当時においては、地権者に支払う用地代金が増加すればヨシバ建設が取得する利益は減少する関係になっていたのであるから、被告人の認識としては国土法違反の報酬は、地上げの報酬と一括してのものであり、地上げ報酬と全く別な二本立てとなっていたわけではない。

その意味では、国土法違反の報酬も、地上げの一環としての意味を有していたのである。

地上げがほぼ完了した段階では、国土法違反の結果によりゴルフ場開発が成功したし、結果として、ヨシバ建設の利益分の内から国土法違反の報酬分が占めるものを、金額的に評価して数億円と評価しても何ら不合理はない。

(3) 資金環流への協力の意味合い

被告人自身、検察官に対する供述においても、ゴルフ場開発に際して生ずる裏金捻出の必要もあって吉羽ないしはヨシバ建設に下請に出した旨の供述をしている。

原判決は、地権者・地元有力者に対する裏金支出の時期等から地権者・地元有力者に対する裏金支出に対する被告人の供述を不自然・不合理として排斥しているが、ゴルフ場開発において多額の裏金が事実上必要となり支出されているのは公知の事実であり、このような資金なしに西方ゴルフ場が開発されたとしたら、極めて稀なゴルフ場開発の事例ということになる。

そもそも、検察官も、本件動機について、「選挙費用やゴルフ場開発に絡んで必要となる様々な資金等を捻出するため」と述べている(冒頭陳述)のであり、被告人がゴルフ場開発のパートナー的立場にあった吉羽には、このような裏金の確保のための還流を頼みやすかったことも、吉羽に請け負わせた理由の相当部分を占めていた。

この資金環流の意味あいから、吉羽に地上げを請け負わせる形を取り、その謝礼として、吉羽に利益を与えたという部分が言わば脱税協力金というか、正確には裏金捻出のための協力金(両者は、資金還流のための協力という点では同じでも、裏金は本来の経費として使う目的があるので、厳密には異なる)の意味を有していたものと理解できる。

[5] まとめ

(1) 原判決は、西方ゴルフで被告人会社がヨシバ建設に地上げを請け負わせたことを仮装したことにより、架空仕入れとして、六億八六四一万六〇〇〇円を計上したと認定したが、現実に、[3]に述べたとおり、様々の理由から、吉羽に地上げを請け負わせたのであり、吉羽に支払う金員の殆どを還流させるために、単に名義のみ介在させたといったものではない。吉羽を地上げのパートナーとして利用することにより、被告人自身様々の利点があったのであり、それに対して、吉羽に請負代金の支払いという形で金員を支払い、その内裏金として必要な金額については、還流をして貰ったというのが、本件の真相である。その還流額は、前述で見たとおり、二億五〇〇〇万円余でしかなく、それ以外は吉羽が取得した。原判決が述べるような「なにがしかの金額」ではない。

(2) 前述のさまざまの意味あいで、吉羽が四億三六〇〇万円を取得したが、それは、次のとおり理解すべきものである。

仮装経費とされた六億八六〇〇万円の内、

還流分が 二億五〇〇〇万円

吉羽の利益 四億三六〇〇万円

A 還流分の謝礼としての報酬

B 国土法違反を含め、吉羽を地上げの当事者として関与させたことの報酬

Aは、脱税協力金の相場からして、精々一割が限度であり、多く見ても、還流分をもとにすれば、二五〇〇万円程度になる。

吉羽が取得した、その余の金額四億一一〇〇万円は、裏金捻出のためという理由では説明がつかず、Bの報酬として理解すべきものである。

(3) 上記Bの支払額は本来の経費である。

それが、吉羽の遂行したことに対して報酬として過大であるとの見方があろうが、前述のとおり、このようなゴルフ事業、とりわけバブル期におけるゴルフ事業では、殆ど何もしない者が幾つか間に入っては、それぞれが僅かの期間に、多額の転がしの利益を得ていたのが実態であった。

前述のとおり、被告人が請け負った価格自体が急激に上昇したため、それに応じて、ヨシバ建設への下請け額も増やしていったが、たまたま、他方で地権者への支払いが思いの他安く上がったことから、吉羽の取得額が前述のとおりの金額となったのであり、過大であるから、報酬として否定すべきものとは言えない。

(3) 仮に百歩譲って、支払いとして過大であるという点があるとすれば、それは、前述のとおり、吉羽徹真から、兄の吉羽が困っているので助けてやってほしい旨頼まれ、吉羽本人からも、再三その窮状を訴えられていたため、請負額を定めるについて、吉羽を助けてやろうという気持ちが働いたためであろう。

仮に、このような吉羽に対する支援という意味での過大報酬分は経費として否認されるとしても、それは前述Bの一部でしかない。

(4) 仮に(3)のように考えた場合、どの限度で経費と認めるべきなのかが、問題となるが、いろいろな意味あいの包含された金の、一部が経費に当たらないからといって、全体が脱税となるものではない。このような場合、結局、経費的な意味がどの程度の割合あったと認められるかによって決するという割合的認定の方法をとらざるを得ない。

そして、前述の裏金捻出の協力金や吉羽への支援といった支払いには、自ずから限度がある。これらの意味あいは、全体支払いの三割程度と認めるのが相当であり、逆にいえば、地上げの当事者として様々に関与したことに対する対価としての部分が七割程度はあったものと認めるのが相当である。

(5) (西方ゴルフにおける主張の結論)

したがって、結論として、この西方ゴルフでは、吉羽に支払われた四億三六〇〇万の内三億五二〇万円を経費として認めるのが相当である。

なお、これは前述の裏金として還流した中から、被告人が、地権者などに支払った金員を全く考慮に入れておらず、その意味では、どう低く見ても、この程度の経費分を認めるべき金額ということになる。

第三 量刑不当

[1] 原判決の問題点

(1) 原判決は、被告会社を罰金一億円に、被告人を懲役二年の実刑に処したが、以下に詳述するとおり、原判決の量刑は明らかに誤りである。

原判決が、このような重い量刑を課した理由は、原判決の判示にあるとおり、「合計脱税額約四億一〇〇〇万円、税額のほ脱率八六・四パーセントという巨額かつ高率な脱税がなされたのであり、経済的に困窮している吉羽ら他の者を利用しながら自ら中心となって積極的に巨額の脱税を実現させたというその犯行態様は、誠に悪質」であるという点にある。

(2) しかし、このような原判決の認定した脱税額については、第二において述べたとおり、大きな事実誤認がある上、原判決の量刑の基本である本件脱税事件の見方そのものに、量刑事実の認定に関する根本的な誤りがある。

(3) すなわち、本件脱税中、金額的に大きな比率を占める西方ゴルフ関連については、第二に詳述したとおり、被告人は、吉羽徹真から吉羽宏四郎の支援を依頼され、吉羽本人からも窮状を訴えられて、懇請され、借財に追われて苦しんでる吉羽に地上げを請け負ってもらうことにより、助けてやろうという理由から、吉羽に請け負わせたのであり、その利益も前述のとおり、脱税協力金たる「何がしかの金」を渡して、吉羽を利用したというのではなく、吉羽に十分な利益を与えているのである。その取得額は、前述のとおりである。

この取得額を正当に認定するならば、原判決のような本件に対する見方はおよそ、成り立ち得ないものである。西方ゴルフ関連については、第二に述べたことから、自ずから、量刑事情も異なるものと理解できる。

本件では、西方ゴルフを除くと、宇都宮南大通りの土地取引の関連、及び相田建設関連が、金額的に相当な比率を占めている。弁護人は、これらの事実について脱税そのものは争わないが、原判決には、これらの事実について、量刑に関する重要な事実認定の誤りがあるので、以下に詳述する。

[2] 宇都宮大通りの土地取引

(1) 原判決の問題点

<1> 原判決は、宇都宮南大通りの下記土地取引

A:六三・一・二 被告会社→ヨシバ建設 代金三億四〇〇〇万円

B:同 日 ヨシバ建設→ワールド商事 代金三億九五〇〇万円

について、AとBの差額五五〇〇万円の全てを被告会社が利得し、その大部分である四五〇〇万円を大和証券の仮名口座や被告人口座に預け入れて蓄財したと断定している。

<2> しかも、差額五五〇〇万円の現金が授受された後の金の流れを確定せず、被告人ないし被告会社が本件によって現実にどれだけ利得したかを客観的事実に基づいて解明することなく、本件取引にヨシバ建設を形だけ介在させたという理由だけで上記のような認定を行っているのである。

<3> しかし、実際には差額五五〇〇万円のうち多くが吉羽宏四郎に流れているのであって、吉羽への支払(相殺)が経費性を認められないものであっても、被告会社ないし被告人が実際に利得した金額は原判決の認定とは大きく異なるのであって、この点は情状に大きく影響する。

<4> 更に、原判決は、本件取引にヨシバ建設を介在させた理由について、被告人が自ら利益を上げるために、吉羽宏四郎をいわば脱税協力人として利用したものであると認定している。

しかし、これは全く事実に反しており、真実は吉羽の窮状を見兼ねた被告人が吉羽の懇請に応じ、利益の殆ど全てを税金で取られるよりは、吉羽を本件取引に関与させることによって同人に利益を取得させてやろうとしたものであって、このような動機についての認定の誤りもまた情状に大きく影響するものである。

(2) 売買代金の流れについて

<1> 本件土地取引でワールド商事から支払われた代金は、

<1> 六三・一・二一 預手三〇〇〇万円

<2> 六三・二・二九 預手三億円

<3> 六三・二・二九 現金六五〇〇万円

であるが、このうち<1>及び<2>は被告会社に交付され、同社の栃木信用金庫に対する借入の返済に宛てられたものであり、この点は争いがない。

そこで、上記<3>の現金残金六五〇〇万円のその後の流れが解明されなければならない。

<2> 六五〇〇万円の流れに関する検察官の主張(冒頭陳述一〇~一一頁)

この点に関する検察官の主張を整理すると以下のとおりとなる。

<省略>

このように、検察官は、上記<1>を除く差額五五〇〇万円の全てを被告人ないし被告会社が利得した旨主張するにもかかわらず、上記<5>についてはその使途が不明のままであり、現金の流れ全体を解明できていないのである。このこと自体、検察官の上記主張(そしてこれを容認した原判決の事実認定)に誤りがあることを物語っている。

<3> 六五〇〇万円の実際の流れ

昭和六三年二月二九日に授受された現金六五〇〇万円の流れは、実際には以下のとおりだったのである。

<省略>

なお、大和証券/安田個人名義口座に入金された五〇〇万円は、被告人の個人的な手持資金を預け入れたものであって、本件取引とは何ら関係のないものである。

<4> 上記(3)のうち、一〇〇〇万円が最終的に吉羽宏四郎に交付され、二〇〇〇万円は同人への貸付金と相殺する形で被告人に戻された点については、被告人及び吉羽の供述が一致しており、信用できる。

そして、上記のように理解してこそ現金六五〇〇万円の流れが全て解明できるのである。

(3) 被告側の実際の利得額

<1> 前記のような金銭の流れに基づいて六五〇〇万円のうちから被告人ないし被告会社が取得した金額を見てみると、

(3)-<2> 五〇〇万円

(3)-<3>-B 二〇〇〇万円

(3)-<4> 二〇〇〇万円

合計 四五〇〇万円

となる。

<2> しかし、前記(1)-<1><2>から明らかなように、この時点では被告会社に支払われるべき代金のうち三億三〇〇〇万円しか受領していないのであるから、上記四五〇〇万円のうち一〇〇〇万円は被告会社が代金の一部として本来受け取るべきものである。

<3> また、(3)-<3>-Bの二〇〇〇万円は、一旦吉羽に渡したものを返してもらい、それまでの貸付金の返済を受けたのであるから、本件取引に基づく利得とは言えない。

<4> そうすると、被告人ないし被告会社が本来取引によって利得したのは四七〇〇万円から上記一〇〇〇万円と二〇〇〇万円を差し引いた残額一五〇〇万円に過ぎないことになる。

(4) 本件取引にヨシバ建設を介在させた動機について

<1> 本件取引がなされた昭和六三年二月当時は、吉羽宏四郎は、前述したとおり、被告会社のいわば専属的パートナーとして同社のゴルフ場開発の仕事に従事していたが、それまでの事業の失敗等から多額の借金をかかえ、その返済に追われている状況であった。

<2> 被告会社としても、吉羽に対して経済的援助をしてやらなければ、吉羽自身が潰れてしまい、任せてある仕事も遂行できなくなるという状況にあった。

<3> そこで、本件土地取引に関しては、吉羽側から経済的援助の要請に応じて、多額の税金の支払を余儀なくされるよりは、ヨシバ建設を介在させることによって吉羽側に利益を得させてやり、そのうえでそれまでの吉羽に対する貸付をある程度精算できればと考えたのであって、吉羽を脱税協力人として利用しようとしたものではない。

<4> このことは、本件土地取引によって吉羽側が得た金員の額からも裏付けられる。

すなわち、被告会社は昭和六三年一月期の法人税額を金二一、二二七、一〇〇円と申告しているが、本件土地取引を被告会社とワールド商事との直接取引として申告した場合、法人税額は金五六、〇一〇、六〇〇円となり、ヨシバ建設を介在させたことによって金三四、七八三、五〇〇円の法人税を免れたことになる。

一方、前記のとおり、吉羽は本件土地取引によって一〇〇〇万円を取得しているが、これは前記ほ脱税額の約二八・七パーセントにあたる。

これは、本件土地取引に単に名義を介在させただけの協力者に対する脱税協力金としては余りにも高額、高率であり、そのように理解することはできず、本件は吉羽に対する経済的援助を動機とするものと考えざるを得ないのである。

(5) まとめ

以上のとおり、本件土地取引によって被告人ないし被告会社が現実に利得したのは一五〇〇万円にすぎず、かつ、本件取引にヨシバ建設を介在させた動機は吉羽宏四郎に対する経済的援助だったのである。

にもかかわらず、吉羽を脱税協力人として利用して五五〇〇万円を利得したことを前提とする原審の判断には、量刑に不当な影響を及ぼす誤りがあることが明らかである。

[3] 相田建設について

(1) 原判決の問題点

<1> 原判決は、相田建設に対する、

<1> 六三・八・二五:一〇〇〇万円

<2> 六三・九・二〇:九〇〇〇万円

<3> 元・一・二〇:五〇〇〇万円

の合計一億五〇〇〇万円の支払は否定しないものの、この支払は被告人個人が蒔田らが所有していた本件不動産を取得するために会社の資金を使ったものと認定し、あたかも被告人が個人的蓄財のために被告会社の資金を流用したかのような判示をしている。

<2> しかし、上記相田建設への支払は同社への支援のために支出されたものであり、被告人の不動産取得と対価関係にはなく、後に詳述するように当時の本件不動産に対する担保設定状況相田建設の負債を考えれば、この不動産は一億五〇〇〇万円の価値を有するものとは到底言えないのである。

しかも、被告人ないし被告会社は相田建設への支援のために多額の支出や負担をしているのであって、被告人による不動産取得は蓄財とは到底いえないものである。

<3> このような原判決の判示認定の誤りは情状に大きな影響のあるものである。

(2) 本件支払の趣旨

<1> 相田建設に対する支援の経緯

本件の金員が相田建設の負債の返済に当てられていることは証拠上明らかであり、原判決も認めている。

ところで、

ⅰ 被告人が相田建設側から支援を要請された経緯。

ⅱ 被告会社が支援を行うことにした理由。

ⅲ 相田建設をすることによって得られる被告会社のメリット。

ⅳ 本件一億五〇〇〇万円の支払も含めて被告会社や被告人個人が相田建設に対して支援のためにいくつかの出捐をしていること

は、原判決で取調済みの証拠から明らかである。

<2> 蒔田ら所有不動産の当時の価値

ⅰ 被告人が所有権を取得した当時の本件不動産に対する金融機関等の担保設定状況は別紙六のとおりであり、極度額合計一億一七〇〇万円の根抵当権が設定されている。

ⅱ 当時の相田建設の栃木信用金庫に対する負債状況は、町田明の平成三年六月一八日付検察官調書及びその添付資料(延滞解消報告)などを総合すると、二億四八五一万円の借入残高があり、うち不動産担保融資の残高は五四八六万円であった。

上記のうち、安田住宅からの九〇〇〇万円の支払(前記(1)-<1>-ⅰ)を返済にあてて相田孝平、蒔田初美ら相田建設の旧経営人が個人保証を入れて借り入れていた債務を返済した(前記町田明の検察官調書、及びその添付資料である「アイダ建設(株)S・63・9・20回収内訳参照」)。その結果、栃木信用金庫に対する借入残高のうち不動産担保融資は二八七〇万円に減った。

しかし、その後、被告人個人が連帯保証人となって、相田建設は栃木信用金庫から下記のとおり新規の融資を受けている。

A:六三・ 九・三〇-一五〇〇万円

B:六三・一一・三〇-三〇〇〇万円 合計四五〇〇万円

ⅲ また、足利銀行に対する負債状況は、後に弁護人が請求する証拠から明らかなとおり一九〇〇万円の借入残高となっていた。

ⅳ 更に、前記町田明の検察官調書から明らかなとおり、相田建設は栃木県信用保証協会の保証で栃木信用金庫から合計七七八〇万円の融資を受けており、これは同協会が本件不動産に設定した根抵当権の極度額を遙かに上回るものである。

ⅴ このように、被告人が本件不動産を取得した前後の、本件不動産に関係する負債総額は、

<省略>

となる。

ⅵ 一方、当時の本件不動産の価値については、

A:前記町田明は、本件不動産の担保価値を時価の八〇パーセント評価として七二〇〇万円と供述しており、これによれば時価評価額は約九〇〇〇万円となる。

B:更に、甲一三二(平成二年一二月一五日付け査察官報告書)によれば、本件不動産の昭和六三年当時の路線価は四八、〇〇〇円であり、見込時価は路線価の倍位とされており、これによれば時価評価額は、

八九六・八七m2×四八、〇〇〇円×二=八六〇九万九五二〇円

となる。

C:一方、弁護人が今回、昭和六三年当時の本件各不動産の価値を改めて調査したところ、後に証拠請求するとおり、その批準価格を合計しても、別紙七のとおり、金六三二五万七〇〇〇円にしかならないのである。

ⅶ このように、本件不動産を担保にした債務の元本が確定されれば、一億〇六〇〇万円の確定債務となる状況だったのであり(前記Ⅴ)、他方本件不動産の当時の価値について前記ⅵのAないしCのいずれの評価をとったとしても担保割れは必至であり明らかな赤字資産だったのである。

ⅷ 以上のとおり、本件不動産が当時、金一億五〇〇〇万円の価値があるものとは到底認められず、一億五〇〇〇万円の支払が右不動産取得の対価ではないことは明らかである。

<3> 本件不動産を取得した経緯

ⅰ 前記のとおり、一億五〇〇〇万円の支払は本件不動産取得の対価ではない。

ⅱ 相田建設は前記(2)-<2>のとおり、被告会社からの九〇〇〇万円の支援によって身内の個人保証を抜き、新たに被告人の個人保証を得て新規の融資を受けている。

このように、被告人は相田建設の関係者の個人保証債務を実質的に引き継いでいるのであって、前記のとおり実質的には価値のない本件不動産の取得はこの債務引継ぎの見返りに過ぎない。

ⅲ また、個人企業ないし同族企業が金融機関等から融資を受ける場合、その代表者個人が保証すると同時に、代表者個人の所有不動産を担保に入れるのが通常である。

本件については、当時、既に相田建設は被告会社の傘下に入り被告人がその代表者になることは既定の事実となっていたため、金融機関に差し入れてある担保不動産の名義も代表者となる被告人の名義にするという通常の状態にしたに過ぎないのである。

(3) まとめ

<1> 以上のとおり、被告会社の相田建設に対する一億五〇〇〇万円の支払は同社への支援の一環としてなされたものであり、本件不動産取得のためのものではない。

<2> このように、本件支払は相田建設への支援のために支出されたものであり、厳密に言えば本来、貸付金として資産計上されるべきものであった。

しかし、後に同社が被告会社に傘下に入った際に相田建設の役員に就任した岡村誠を、たまたま西方ゴルフのレイアウト作業に関与させていたなどの経緯もあり、本件支払を右レイアウト作業に関する経費勘定で処理したに過ぎないというのが本件の実態である。

これが結果的に脱税と認定されるとしても、被告人としては、当時、ことさら計画的に脱税する意図をもってこのような処理を行ったものではないのである。

<3> したがって、本件支払を被告人の個人的蓄財のために計画的に行った脱税であり、これによって多額の利得を得た旨の認定を行った原判決には、情状に関する重大な誤りがあり、これが量刑に不当な影響を与えたことは明らかである。

[4] その他の情状について

(1)、 以上に見てきたとおり、原判決が、被告人に実刑判決という極めて厳しい刑を課した理由の「合計脱税額約四億一〇〇〇万円という巨額かつ高率な脱税がなされたのであり、経済的に困窮している吉羽ら他の者を利用しながら自ら中心となって積極的に巨額の脱税を実現させた」という見方は、根本的に誤っている。

本件は、逆に、被告人が経済的に困窮していた吉羽らから懇請されて、その支援的意味を含めて行なわれたものであって、被告人は吉羽らにうまく利用された面が強いといっても過言ではない。

(2) その他の情状について述べると、被告人ほど、本件により様々の面での厳しい制裁をうけている例は、少ないと思われる。

すなわち、

<1> 長年の夢であった県会議員に初当選して、地域の発展のために活躍すべく多大の抱負を抱いていたが、その地位を辞職せざるをえず、人生の夢が費えたこと。

<2> 被告会社をはじめ、被告人の営んでいた事業は、指名自粛などの影響から、事実上、休業に近い状況に追い込まれたこと。

具体的には、株式会社栃木建設の閉鎖、株式会社アイダ建設の閉鎖、株式会社ヤスダ建設コンサルタントの指名自粛とその影響による経営不振、被告会社の縮小など、被告人の各種事業は、すべてが壊滅的な状態となり、十二分に経済的制裁を被った。

<3> 被告人は逮捕直後から、テレビ、新聞などで、「B勘屋を利用した悪質で計画的な犯行」との実体に即さない報道が多数回繰り返され、被告人のみならず、学齢期の子供たちを含め家族が皆大変な被害を受けてきたこと。

(3) 本件の量刑が不当であることは、その情状を吉羽宏四郎と対比してみると明らかである。

原裁判所は、同じ構成体で、吉羽宏四郎に対して、執行猶予付きの判決を言い渡した。量刑の差異が前述してきた、本件の基本的な見方に起因するものであることは明らかである。

既述したとおり、この見方自体が誤っており、本件による利得も吉羽の方が多く取得しているし、被告人が税額の一億七〇〇〇万円を納付したのに対して、実質的に被告人より利得を得た吉羽は勿論全く納付資金を出してはいない。また、前記の制裁という面でも、被告人の受けた制裁は、吉羽とは比べることができないほど大きい。

弁護人は、吉羽の刑が不当だといっているのではない。本件脱税の金額やその態様からすれば、吉羽にしろ、被告人にしろ、まったくの初犯であり、当然、刑の執行を猶予して、社会内処遇に期待すべきなのである。本件において、前記の酷い制裁を被った被告人をして、なおかつ実刑に処さねばならない理由はない。被告人に対する実刑判決は、余りに酷であり、応報刑、教育刑いずれの観点からも是認できるものではない。

原判決は、量刑の裁量を誤るものであり破棄されるべきである。

以上

別紙 (1)

修正損益計算書

<省略>

別紙 (2)

ほ脱税額計算書

<省略>

別紙 (3)

修正損益計算書

<省略>

別紙 (4)

ほ脱税額計算書

<省略>

別紙 (5)

「西方ゴルフ関係・架空仕入-(株)ヨシバ建設関連」

<省略>

別紙 (6)

相田建設関係/担保設定状況

[不動産目録]

<1> 栃木市泉町字堰場原10-11 宅地 122.18m2

<2> 栃木市泉町字新地369-21 宅地 247.10m2

<3> 栃木市泉町字関生443-3 宅地 148.76m2

<4>  同 443-4 宅地 37.02m2

<5> 栃木市泉町字関生441-3 宅地 152.06m2

<6>  同 441-4 宅地 189.75m2

[設定担保一覧表]

<省略>

「相田建設関係」 別紙 (7)

○被告人安田稔が蒔田らから取得した土地にかかる昭和63年の評価額

<省略>

当座預金小切手帳控一覧表〔別表1〕

<省略>

当座預金小切手帳控一覧表〔別表1〕

<省略>

(株)ヨシバ建設当座預金一覧表(東武信用金庫No.190996) 〔別表2〕

<省略>

ヨシバ食品(株)振出 約束手形一覧表〔別表3〕

<省略>

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